姫様、魔物討伐へ
「さて……これからどうしますか。」
宿屋の一室に集まった三人は地図を広げて今後の行き先を相談していた。
「私はどこへでもお供しますよ~。」
「ロートルは東西と北で国境があります。どちらもセリエ河という大河が国境線になっており橋を渡らないと越境はできません。」
「うーん、とりあえず西へ進もうか。」
「となると、西の国境へ向かいますか。」
「地図だと結構距離ありますね。」
「うむ、今いる王都は丁度領内の中心にありますからなぁ。どこへ向かうにしても距離はありますぞ。」
「まあいいじゃないか。別に急ぐ旅でもないんだし、のんびり行こうよ。」
「はい!私、食糧買っておきますね。」
「そうじゃの。儂も薬草を少し買っておくかの。」
「じゃあ今日一日準備して、明日出発しよう。」
「はい!」
「御意。」
こうして、次の目的地は決まった。
ヴォルフとプリシアは買い物に出掛けてしまったのでアナスタシアは一人取り残される。
せっかくなので剣を持ち出し、宿屋の中庭で鍛練に励むことにする。
旅に出てそれほど経っていないが、身のこなしや剣を振る速度は自分でも分かるほど向上している。
それに、ほぼ毎晩ヴォルフに魔術を指南してもらってもいる。
着実に強くなっている事に近頃は高揚感を感じる事が多い。
(ダメダメ!調子にのるな!)
頭を降って自分を戒めるアナスタシア。
タンザ村の魔物の時も野盗の時もヴォルフの援護があり、ギリギリの勝利だったではないか。
そう言い聞かせ、素振りを続ける。
しばらく剣を振っていると、通りかかった初老の女性に声をかけられる。
エプロン姿に洗濯籠を持っている。宿で働いている人だろうか。
「やれやれ……こんなお嬢ちゃんまで魔物退治かい!まったく……。」
いきなり叱られたアナスタシアは素振りを止め女性に向き直る。
「あ、あの……なにか?」
「いや、だからさ、アンタみたいな娘まで賞金目当てで魔物退治にいくんだろ?やれやれ皆お金に目が眩んでさ!」
「魔物退治ですか?別に私は…。」
「ん?魔物退治じゃないのにこんな場所で剣を振り回してたのかい?アンタ相当変な子だねぇ。」
「うっ……。ご、ごめんなさい。」
女性の遠慮ない言葉にショックを受けるアナスタシア。
「まあ、趣味はひとそれぞれかねぇ。私にゃぁ分かんないけど。」
「あ、あの……魔物退治って?」
アナスタシアが恐る恐る聴く。
「アンタ知らないのかい?何でもレーゾンって町に魔物がでるらしくて王様が退治した者に賞金をだしたんだよ。今はあちこちで魔物が出るもんだから兵士様達じゃ手が回らないんだとさ。」
「へ~。そんな事が……。」
「賞金だけじゃなくて、退治したら兵士に取り立ててくれるみたいでさ。それで町の男どもはみんな武器を持って大騒ぎよ。」
女性は怒っているのか語気が荒い。
「うちの息子もさ、酒場の下働きしてたんだけど賞金貰って兵士になるんだ!って言ってレーゾンへ行っちまったよ。」
「それは……心配ですね。」
「まったく馬鹿だよねぇ。あんなモヤシみたいにひょろひょろした子が魔物退治なんてさ。」
女性は寂しげな表情になる。
言葉はきついが本当に息子を心配しているのだろう。
「まあまあ、話し込んじゃったね!仕事しないと!じゃあね!」
そう言うと女性は駆け足で行ってしまった。
(魔物か……。)
その夜、アナスタシアはヴォルフとプリシアに昼間に聴いた魔物の事を話した。
「なるほど……そんなことが。」
「あ~、確かに剣を持ってる人や鎧を着た人がいっぱい歩いてました。」
「でさ、私達もレーゾンへ行ってみないか?」
「うむ、まあそう言うとは思いましたが……。」
「賞金や兵士云々はどうでもいいから手柄は適当な人に譲ってさ。」
「レーゾンってここから南西に4日くらい歩いた所ですね。」
プリシアが地図を見ながら言う。
「うん、国境にはちょっと遠回りだけど。」
「うむ、まあ食糧や物資を補給するのに立ち寄るのには丁度いいですな。」
「ね?きっと町の人も困ってるだろうし私達にできるなら退治にいこうよ。」
「承知しました。ではレーゾンへ行ってみますか。」
「はい!」
「ありがとう、二人とも。」
こうして、三人はレーゾンへと向かうことになった。
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