姫様と褒章
「ほう……。それは大変でしたなぁ。」
アナスタシアとプリシアは夕食の席で先程の出来事を話した。
ヴォルフは二人の土産話を聞きながら、ロートル王国の名産である鹿の肉料理を口に運ぶ。
「それにしても変わった人でしたね~。」
「うん。それに凄い剣捌きだった。」
「フォフォフォ。姫様、さっそく世界の広さを実感しておりますな。」
「うーん。そうかもしれないな。あんな人がそこいらを歩いてるんだから。」
「まあ、それはさておき明日の件ですが昼過ぎに城から迎えがくるそうです。」
「了解。明日はナーシャになればいいんだろ?」
「左様です。」
「ふふふ。姫様、頑張って下さいね。」
「ふぁ~い。」
食事が終わるとヴォルフとプリシアは部屋に戻り、アナスタシアは宿の中で剣の鍛練をしてからその日は休んだ。
※※※※※※
次の日、正午に城からの迎えの馬車が来た。
アナスタシアは髪を密編みにし、町で買った変装用の眼鏡をかける。
三人は馬車に乗ってロートル城へ向かう。
お堀に掛かった橋を越えると門が開き敷地内へ馬車が入る。
さらに進むと城の正面扉に横付けされ、降りるように言われる。
すると、城内から鎧を着た兵士が出てきた。
「待っておったぞ、旅の者よ。私は兵士長のマルス。さあ、王がお待ちだ。こちらへ。」
そう言うと城内へ案内される。
扉が開き中へ進むと広々とした空間に左右の階段があった。
二階に上がりまっすぐ進んだ所が謁見の間らしい。
三人がマルス兵士長の後に続き歩いていると、
「しかし、そなたらは随分と落ち着いておるな。」
と不思議そうに尋ねる。
「初めて城へ入った民はだいたいが物珍しさにソワソワしておるが、そなたらは平然としておる。」
三人は慌てて取り繕う。
「いやいやいや、そんなことはないですぞ!」
「そうですよ!私なんてさっきから緊張し過ぎて震えてます~!」
「……ん?そうは見えんが?」
「いや~!お城なんて初めて入ったからもう緊張が一周回って落ち着いて見えちゃったかな?ははは……。」
「ほう、そんなに緊張しておったのか!それはすまなかったな。」
冷や汗をかきながらなんとか誤魔化せた。
三人はホッと息を吐く。
廊下を進み正面にある扉を開けると謁見の間に到着する。
部屋の正面にある階段を上った先に王と王妃の椅子があり、向かって右にロートル王が、左に王妃が座っている。
三人は階段の下で膝を付き頭を垂れる。
「面を上げよ。」
王がそう言うと三人は顔をあげる。
「此度は我が国内の野盗討伐、ご苦労であった。聞けばそなたらのうち、二人で野盗団を捕らえたとか。」
「差し出がましい真似をしてしまい申し訳御座いません。」
ヴォルフが代表して答える。
「そなたらの活躍がなければ犠牲者が増えておったやもしれぬ。礼を言うぞ。」
「勿体ないお言葉ありがたき幸せで御座います。」
「言い訳になるが……今、我が国は魔物の出現が多発しておっての。野盗まで手が回っておらんかった。」
魔物という言葉に三人が反応する。
「魔物……で御座いますか。」
「うむ。そなたらは何処から?」
「はっ、アイソルから参りました。」
「ほう、アイソルからか。ではあまり実感がないやもしれぬな。」
「はい。それほど迄に頻発していると?」
「うむ。先だってアイソル国王には書状を送ったのだ。」
「そうで御座いましたか。」
「そなたら、これから何処へ行くつもりじゃ?」
「はっ、西へ向かうつもりです。」
「西か……。」
王の言葉には、諸手を挙げて送り出せないという意味が感じられた。
「危険は承知のうえで御座います。」
「うむ。腕に覚えのあるそなたらなら大丈夫か。」
「お心遣い、ありがたき幸せ。」
「そうか、ならば何も言うまい。では、そなたらに褒美と勲章を授けよう。」
三人は一人ずつ王の前まで進み勲章を受けとる。
幸いアナスタシアの正体はバレずに済んだ。
勲章を受けとると、褒美として金貨を渡されようやく三人は堅苦しい場から解放された。
帰りの馬車を丁重に辞退し、散歩がてら歩いて宿に戻る三人。
「ふー終わった終わった!」
眼鏡を外し、髪をほどくアナスタシア。
「フォフォフォ。無事に凌げましたな。」
「うーん、私まで戴いて良かったんでしょうか?」
「いいんじゃない?プリシアが待っててくれたから生きて帰ったこれたんだし。」
「そうですな。プリシアはプリシアのやるべき事をやったのじゃ。十分資格はあるのう。」
「お二人とも……。」
黄昏時、三人は夕日を背に宿へと帰るのであった。
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