姫様、反撃
「くそがっー!!」
大声を上げながら最早なりふり構わず暴れる大男。
「お、お頭!?うぐっ!」
残りの野盗達も闇の中ヴォルフに昏倒させられていく。最早周りの状況など頭にない大男は辺りの物を手当たり次第破壊している。
すると、大男の前方にボンヤリと魔術で火をつけた松明を持ったヴォルフの姿が現れる。
目を見開く大男。
「ぐっ……!くそジジイがぁぁぁ!!」
冷静を装った仮面をかなぐり捨て、野獣のようにヴォルフに突進する大男。
しかしヴォルフに到達する前に崩れ落ちる。その両足からは鮮血が吹き出す。
「がはっ!」
膝をつき片腕で身体を支える大男。
ようやく暗闇に慣れてきた視界にはアナスタシアが映る。
「終わりだ。」
剣を突き付け、アナスタシアが冷たく言い放つ。
「#※$Ω×@!!!」
最早言葉にすらなってない罵詈雑言を叫ぶ大男。
ヴォルフが吹き飛んだ篝火に火をつけ、ようやく部屋が少し明るくなった。
辺りはヴォルフの竜巻で荒れ果て、床には野盗達が気を失い倒れている。
「やれやれ、終わりましたな。」
ヴォルフがホッと息つく。
「殺す殺す殺す殺す殺してやる!てめぇら!」
満身創痍で怒鳴り散らす大男にヴォルフが言う。
「お主も早く止血せんと死ぬぞ。諦めて大人しくしておれ。」
「#※$Ω×@!!!」
ヴォルフがやれやれとため息をつき、アナスタシアを見る。
無言で頷くアナスタシアが大男を気絶させようとした時、
「てめぇら!大人しくしやがれ!!」
入り口から野盗が一人転がり込んできた。
「!?」
アナスタシアとヴォルフに緊張が走る。
どうやらまだ隠れ潜んでいた輩がいたらしい。
「はっはっはー!てめぇら!動くんじゃねぇぞ!動いたらこいつらが……。」
野盗の手には猟銃が握られていた。
「なっ!」
「なんと銃まで持っておるのか!?」
大陸の東端にあるアイソルではなかなかお目にかかれないが火薬を仕様した火器は一般にも出回っていた。
しかし、富裕階級の狩猟趣味や私設兵用などで、あとは国が保持するものだと思われていたが、まさか野盗団が持っているとは。
猟銃を持った野盗は銃を捕らえた女性達が入っている牢屋に向けながら歩いてくる。
「ひひひ……。こいつらが穴ボコだらけになるぜ!」
勝ち誇り甲高い声で叫ぶ野盗。
アナスタシアとヴォルフはなんとか隙ができないか制止したまま野盗を睨む。
「よし!よしよしよし!よくやったぞ!ははは…。どうだ、てめぇら!おい、まずはジジイから……。」
「はぁ?命令すんじゃねーよ。」
「え?」
部下にまさかの言葉を吐かれた大男が間抜けな顔で固まる。
「おいおい、命令してんじゃねーよ、この筋肉馬鹿が。てめぇはそのまま死ね。」
「なっ……なんだと?」
「これからは俺がお頭だ。てめぇはもういらねーんだよ。」
「てめぇ誰に向かっ……!」
バンッ!!
大男の目の前の地面に穴が空く。
「けっ、外したか。結構難しいな。」
呆然とする大男を余所に野盗は続ける。
「だか、この距離なら外さないぜ!どの女から穴あけてやるか……。」
「やめろ!」
アナスタシアが一喝する。
「おいおい嬢ちゃん。そんな慌てんなよ。まずはその物騒なもんを捨てろ。」
「くっ……。」
「ははは!可愛いねぇ?じゃあ次は着ている物でも脱いで……。」
調子に乗った野盗が言おうとした瞬間、牢屋の中から手が伸びて猟銃を押さえる。
「なっ!離せっ!」
慌てて振り離なそうとする野盗だが、この隙を逃すわけもなくヴォルフが氷の矢を放つ。
「ぎゃぁー!痛ぇぇ!」
腕を串刺しにされ猟銃を落とす野盗。
いつの間にかアナスタシアが目の前に迫り手甲を着けた拳で殴り飛ばす。
「ぶげっ!!」
壁にぶつかり野盗は無様に気を失った。
「ふぅ、助かりましたな。」
「ああ、貴女のおかげです。」
二人が勇敢にも野盗に立ち向かった婦人に礼をいう。
「…………。」
婦人は顔を伏せていてその感情は読み取れない。
「さて、これで21人ですな。」
「油断はできないけど、こいつらを片付けないとね。」
アナスタシアが牢の鍵を奪おうと大男に歩み寄る。
大男はショックで茫然自失している。
仕方なく首の後ろを手刀で叩き気絶させてから服のポケットを漁り鍵を見つける。
「さあ、早く。」
アナスタシアが牢を開けると、先程の婦人を先頭に女性達が出てくる。
涙を流しながら礼を言う者、疲れ切って虚ろな者、様々だ。
女性達を解放したら、アナスタシアとヴォルフは手分けして野盗達を辺りにあったロープや鎖で縛り上げ牢にぶち込んだ。
「あとは……。」
「こいつか……。」
右腕を失い、両足に重傷を負った大男をヴォルフが止血してやる。念のため鎖で厳重に拘束しておく。
「こんなもんか……。」
アナスタシアとヴォルフが立ち上がり大男を引き摺って行こうとすると、地面に人影が映った。
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