姫様とお頭
初めに一番入り口側にいた野盗が倒れた。
仲間たちが何が起こったのか理解する前にさらに近くにいた三人が急襲により頭部や鳩尾への一撃により気絶させられる。
「な、なんだ!?」
「こいつら!」
慌てる野盗達のなかでお頭と呼ばれている大男だけは、敵襲だというのを瞬時に理解していた。
手元にあった手斧を、振り向き様にヴォルフとアナスタシア目掛けて投げる。
「っ!!」
「ほっ!?」
二人は左右に別れて斧の投擲を避ける。
勢いのまま大男に斬りかかろうとしていたアナスタシアは出鼻を挫かれる。
「あ~何だお前ら?」
面倒くさそうに大男が言う。
しかしその目は濁りきっており威圧感を発していた。
「拐った人達を返してもらうぞ。」
アナスタシアが剣を構えながら言う。
奥の牢屋では突然の救援者の出現に色めき立っている。
「なんでここが分かった!?」
野盗の一人が怒鳴る。
「あ~?そんなもん、お前らの誰かが尾行られたか、まだ戻ってきてねー奴が裏切ったかしかねーだろ。」
大男が事も無げにいう。
「ジジイと小娘だけで来るなんてイカれてんじゃねーのか!」
「お頭!殺っちまいましょーぜ!」
部下達が怒鳴る中、大男だけは静かだ。
それが逆に不気味に感じる。
「ちっ!面倒くせーな。せっかく居心地のいいアジトだったが、仕方ねー。さっさと殺って別のアジトへ行くぞ。こいつらもまさか、誰にも行き先を言わずに来たわけじゃねーだろ。」
なるほど、この男、腕力だけではなく頭も回るようだ。アナスタシアの警戒心が強くなる。
「で、お嬢ちゃんが俺とヤろうってか?」
「ああ、覚悟しろ。」
「ふふふ……そうかい、じゃあヤりますか!!」
そういうと、目の前のテーブルの上にあった酒瓶をアナスタシアへ投げつける。
アナスタシアが難なく避けると大男はテーブルを盾に突進してきた。
「くっ!?」
思いがけない行動にアナスタシアが大きく左に跳ぶ。
大男はそのまま突き進み、先程自分が投げて壁にめり込んでいる手斧を手に取る。
「うりゃっ!!」
そのままアナスタシアを無視して近い位置にいたヴォルフに振り下ろす。
ヴォルフも後方に大きく跳び距離をとって仕切り直す。
「ちっ!なかなか早いじゃねーか爺さん。」
ヴォルフが野盗たちに向かって火の玉を放つと前転し避ける大男。
避け損なった野盗の叫び声が響く。
大男が今度はアナスタシアへ標的を変え斧を連続で振り回す。
(くっ!は、早い!)
ヴォルフの魔術の効果があるので避けれてはいるが、単身で戦っていたらと冷や汗が流れる。
ヴォルフの方に視線を向けると、残った野盗達に囲まれながら紙一重で攻撃をかわし続けている。
「そりゃっ!!」
大男が斧を横に一線する。
アナスタシアが剣で受け止めるも、余りの衝撃に手が痺れる。
その隙に大男がアナスタシアの身体を前方に蹴り飛ばした。
「うぐぁっ!!」
胃液が逆流し、視界が一瞬真っ白になる。
背を壁に思いっきりぶつけ崩れ落ちる。
大男がトドメを刺そうと斧を振りかぶる。
刹那、間一髪で氷の矢が飛んでくる。
「おっと!」
大男が身体を反らせて避ける。
その隙にアナスタシアは立ち上がり距離をおいて構える。
(ジイ……助かった……。)
激しい動きの連続で身体がねをあげはじめる。
(はぁはぁ……。大丈夫。これくらいなら、経験済みだ。)
呼吸を整えながら目の前の敵に集中する。
大男は斧の持ち手で肩を叩きながらヴォルフを見ている。
「魔術師か……。ちっ、厄介な爺さんだな。」
苛立たしげに毒づいている。
(私は問題ないってことか……。くそっ!)
ヴォルフの魔術の効果も限界がある。
早く決着をつけなくては。
アナスタシアが焦り始めたのを狙ってか大男が斬りかかってくる。
腕力にものを言わせた連続攻撃を剣で受け止め、受け流し、切り返す。
しかしアナスタシアの疲労は確実に蓄積されていた。
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