姫様の野盗討伐
アナスタシアは町にいたロートル兵に状況を伝えて再び野盗達を捕らえた場所まで戻ってきた。
ロートル兵の乗る罪人を護送する馬車の後ろを馬を駆りついてきたアナスタシアが大きな岩に腰かけたヴォルフの元にやってくる。
「すまない、待たせた。」
「いえ、滅相もない。」
そこにロートル兵も加わる。
「野盗の捕縛、かたじけない。聞けば旅の途中だとか。」
「ふむ、たまたま巻き込まれての。」
「野盗どものアジトまで聞き出してくれるとは重々礼を言わせてくれ。」
「いや、いいんだ。それより、アジトへは?」
アナスタシアの問いに兵士の表情が曇る。
「残念だがすぐには向かえない。町を空にするわけにはいかないからな。今から王都に報告し、討伐隊を送ってもらうとなると早くて明日の昼か……。」
「そんな……!遅すぎる!」
「お嬢様……。」
声を荒らげそうになるアナスタシアをヴォルフが諌める。
「すまないな。兎に角、こいつらは王都へ連れていく。その足で討伐隊の要請をしてアジトへ向かう。」
「…………わかった。」
アナスタシアが渋々頷く。
「君たちには感謝する。こいつらには手を焼いていたのでね。アジトさへ分かれば一網打尽だ。」
丁度、別の兵士が拘束された野盗達を馬車に乗せ終えたようだ。
「君たちにはこれからどうするね?王都まで乗せていこうか?」
「いや、大丈夫です。町に連れがいるので。」
アナスタシアが兵士の申し出を辞退し、ヴォルフとともに見送る。
「ジイ……。」
「なんでしょうかな?」
「一緒に来てくれるか?」
「ふむ……。御意に御座います。」
ヴォルフが馬に乗ると、手を差し出しアナスタシアを後ろに乗せる。
馬の腹を軽く蹴り走り始める。
小気味いい疾走音を奏でながらアジトの場所へ向かう。野盗から聞き出した話では、東にあるカタート山脈の麓、カイトルの森にある祠がアジトらしい。
アナスタシアの心中を察して全速力に近い速度で馬を走らせるヴォルフ。
おかげで日没前には森の入り口に到着できた。
「さて、儂が前を歩かせてもらいますぞ。」
「ああ、頼んだ。」
祠への道順は聞いているが、信用はできない。
少なくとも野盗のアジトならその道すがら罠があるのは当然だ。
それもあり、アナスタシアは素直にヴォルフの指示に従う。
アナスタシアが驚いたのは、ヴォルフが仕掛けられている罠を次々と破っていく事だった。
アナスタシアからするとなんの変哲もない木々の間や獣道を正確に罠の手前で足を止め、アナスタシアに罠の種類や破り方を説明しながら進んでいくのだ。
「ジイはどこでそんな知識をつけたんだ?」
「フォフォフォ。まあ儂も若い頃は……。ん?」
二人の目の前に明らかに人工的な石柱が見える。
その前には恐らく見張りであろう男がたっている。
(あそこだね。)
(はい、あの見張りをなんとかせねば。)
(私にやらせてくれ。)
アナスタシアはそう言うと足元の小石を拾い、自分達のいる場所と反対側を目掛けて投げる。
見張りを挟んで反対側でガサッと音がなり、見張りの注意がそちらに向く。
その刹那、アナスタシアは見張りに向かい疾走する。
見張りがアナスタシアに気付き振り向くが、アナスタシアの膝蹴りが顔面に直撃し崩れ落ちる。
「よしっ!ジイ……。」
「はっ!」
祠の入り口は人が二人通るのが精一杯の大きさだが、中の通路は広く作られており、等間隔で壁に松明がついていた。
二人は頷き合いヴォルフから祠の中へと足を進めた。
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