姫様、襲われる
アナスタシアの声にヴォルフがプリシアを背に庇い杖を構える。
対する野盗たちも剣や槍を馬上で構え突撃してくる。
アナスタシア達の直前で左右に展開し円上に囲う。
プリシアを中心にヴォルフとアナスタシアが背を庇い合い対峙する。
「今日はついてるぜ!一日に二回も狩りができるなんてな!」
アナスタシアが"二回も"という言葉に目を見開く。
「しかも上玉が二人もいるじゃねーか!たまんねーな!」
「ジジイはすぐ殺すなよ!なぶり殺しだ!」
「はっは!あの金持ち野郎はお前がすぐ殺っちまったんじゃねーか!」
「へっ、生意気に女を守ろうとしやがったからな。つい刺しちまったぜ。」
アナスタシアの瞳が怒りで暗くなる。
(姫様、馬上の敵に囲まれていては……。)
(わかってる。ジイはプリシアを守ってくれ。)
(姫様……なにを?)
(私を信じろ!)
アナスタシアとヴォルフが小声で話していると、
「なにをごちゃごちゃ言ってんだ!」
野盗の一人がヴォルフ目掛けて槍を突き出す。
しかし杖で捌かれてしまい態勢を崩す野盗。
「くっ!テメェ!」
アナスタシア側にいた野盗がヴォルフを背後から突き刺そうと槍を振りかぶると、その隙をついてアナスタシアが馬の腹の下から反対側に滑り込む。
「なっ!」
背後に回り込まれた野盗はどちらに槍を向けるべきか迷う。
当然そんな隙をアナスタシアが逃す訳もなく野盗の右腕に剣を突き刺す。
「ぎゃぁぁ!いっ痛てぇぇ!」
馬から転げ落ちた野盗の顔面を蹴り飛ばすアナスタシア。
その一撃で野盗は気を失う。
すぐさま次の野盗へと標的を移し斬りかかるアナスタシア。
三人を囲っていた野盗たちは、今やアナスタシアとヴォルフに挟み撃ちにされた格好となる。
「プリシア、しゃがんでおれ!」
「は、はい!」
頭を抱えてしゃがみ込むプリシア。
ヴォルフが野盗たちの斬撃や刺突を捌き、杖の先端から氷の矢を放つ。
「ぐぁっ!このジジイ!」
腕や脚を射抜かれた野盗二人も落馬し地面に転がる。
ヴォルフが二人の頭部を杖で打ちすえて気絶させる。
「な、なんなんだよ、こいつら!」
「くそっ!たかが牝ガキとジジイに……。」
自分達の油断を後悔する野盗二人に対峙するアナスタシアとヴォルフ。
「こいよ、私を連れて行くんだろ?」
「くっ、調子に乗るんじゃねー!」
馬を嘶かせながら野盗が槍を突き出す。
アナスタシアは切っ先を見据え外側へと避け、馬上の高さまで跳ぶ。
「遅いんだよ。」
そう言うと野盗の右腕を切り落とすアナスタシア。
「ぎゃぁぁ!」
鮮血を吹き出しながら馬から転がり落ちる野盗。
「く、くそ……。仕方ねぇ!」
最後の一人が逃走を図るがヴォルフが馬の前に立ち塞がる。
「死ねジジイ!」
撥ね飛ばそうとする野盗の目の高さまでヴォルフが跳び上がると馬上から蹴り飛ばす。
「ぐぇっ!」
倒れ付した野盗が起き上がろうとすると目の前に剣が突き出される。
「ヒッ!」
怯える野盗を暗い瞳で見下ろすアナスタシア。
「ヒィ……た、助け……」
「なぜ逃げる?」
「え?え?」
「なぜ逃げる?自分より弱い相手じゃないと戦えないのか?」
野盗にはアナスタシアが何を言っているのかわからない。
「た、頼む助けてくれ!」
命乞いする野盗を冷たく見下ろすアナスタシアの隣に右腕を失った野盗を止血し終えたヴォルフがやってくる。
「助けたのか……。」
「はい。」
「その必要はあるのかな?」
「ここはロートル領内です。ロートル王国の法に任せましょう。」
「………………。」
野盗を見下ろしたままアナスタシアがしばし沈黙する。そして、
「仲間の居場所を言え。」
野盗にそう告げた。
生き残る道を見つけた野盗は饒舌にアジトの場所を喋った。
喋り終えると、
「なっ!これだけ話したんだから助けてくれるよな!」
と訴える。
そんな野盗を無言で蹴り飛ばすアナスタシア。
「ぶべっ!」
血反吐を吐いて気を失った。
「姫様……。」
プリシアが心配そうにアナスタシアに駆け寄る。
「大丈夫、大丈夫だよプリシア。」
「はい……。」
その後、気絶させた野盗達を引き摺っていくわけにもいかず、アナスタシアとプリシアが野盗達の馬に乗り町まで走り常駐している兵に事態を報告することになった。アナスタシアの後ろに乗り胴体にしがみつくプリシアが尋ねる。
「姫様、これからどうするんですか?」
「あいつらを引き渡したらアジトに行くよ。プリシアは町の宿にでもいてくれ。」
「…………はい。」
プリシアは何もできない自分を悔やむ。
「大丈夫。必ず無事に戻るから。」
「はい!」
精一杯元気に答えるプリシアだった。
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