姫様、出発
翌朝。
「ここから4日程でアステリアじゃ。ほれ。」
昨日の老人がグレンに地図を差し出した。
「ん……なんだよこれ?」
「砂漠の地図?」
隣にいたアナスタシアが覗き込みながら言った。
「そうじゃ。お前さんら砂漠は初めてなんじゃろ。テバ砂漠は広大じゃからな。詳しい地図が無いとまず間違いなく迷うじゃろ。」
「へ~。ありがとう。」
「これも金とんのか?」
「バァカもん!」
老人が杖でグレンの肩を叩いた。
「ひねくれた小僧じゃな。優しい儂からのプレゼントじゃ。」
「そうだよグレン。失礼だよ~。」
「おぅおぅ!こちらの娘さんは分かっとるのぅ。」
老人がアナスタシアの手を撫でながら言う。
「へいへい。俺が悪かったよ。で、この赤丸は?」
地図にはメーレからアステリアまでの間に3つの赤い丸が描いてある。
「そこはオアシスがあるところじゃよ。そこを経由しながらアステリアに行くとよい。」
「オアシスかぁ。」
「なるほど。助かるぜ。」
「そうじゃろ。そうじゃろ。」
老人が満足そうに頷く。
アナスタシアとグレンは老人に礼を言うと馬に跨がる。
すると、老人がグレンに近づいてきた。
「若い二人が旅なんてなにか訳ありなのはわかる。」
「はぁ?」
小声で話す老人にグレンが怪訝そうに聞き返す。
「皆まで言うな。儂には全てわかっとる。あの娘、剣なんかぶら下げとるが本当は男に守られたいという気持ちの裏返しじゃ!」
「いやいやいやいや!あいつに限ってそれはねぇよ!」
「ふっふっふ。まだ青いのう。」
不適に笑う老人。
「ねー!早く行こうよっ!」
少し先からアナスタシアが急かす。
「おお!今行く!」
「ふっ。まあ、頑張るんじゃな。」
親指を立てる老人に溜め息を返しながらアナスタシアを追うグレン。
「なんの話してたの?」
「いや、たいしたことじゃねーよ。」
「ふぅん。」
二人は地図の赤丸を目指して進んだ。
太陽が真上に来る頃には周囲の景色もすっかり変わっていた。
「こりゃあの爺さんの言う通りだったな。」
「だね。ふぅ……。」
額の汗を拭いながらアナスタシアが息をつく。
「はぁ~これが砂漠かぁ。ほんとに砂の海だ。」
感嘆するアナスタシアにグレンが方位磁石と地図を見ながら言う。
「1つ目のオアシスは……あっちだな。」
「わかった。頼んだよ。」
アナスタシアが馬の首を優しく撫でる。
大きく嘶くと馬は力強い足どりで砂の上を歩きだした。