姫様、越境作成
「あっ、見えてきた!」
アナスタシアが前方を指差し振り向く。
「あれが関所ですか~。」
「うむ、ようやく着きましたな。」
後ろの二人にも前方の関所が見えたようだ。
「姫様、くれぐれも頼みましたぞ。」
ヴォルフがアナスタシアにローブを渡しながら言う。
「わかってるって!」
ローブを着てフードで顔を隠したアナスタシアが親指を立てる。
三人はヴォルフを先頭に関所へと進む。
国境の門の前には番兵が四人立っており、さらに脇に建っている詰所兼宿泊施設にも数名待機しているようだ。
「止まれ!」
アナスタシア達がもの手前まで来ると番兵が声をかける。
「うむ、ご苦労じゃ。」
「え!?まさかヴォルフ様?」
「如何にも。」
周りにいた他の番兵も集まってくる。
「本当にヴォルフ様だ。」
「何故ヴォルフ様が?」
「何か聞いているか?」
ざわめく番兵たちを落ち着かせるようにヴォルフが咳払いをする。
「実はな、陛下からの密命で大陸の西側まで往くことになってな。」
「なんと!?そんなことが!」
「左様、密命故、儂と付き添い二人だけなのじゃ。」
そう言うとヴォルフが王の書簡を番兵たちに見せる。
「確かに王家の印がある。」
「後ろの二人は?」
「わ、私はプリシアと申します!」
プリシアが緊張した様子で答える。
番兵がアナスタシアの方を見ると、俯きながら
「ナーシャ……です。」
と答える。
「まあ、二人とも儂の弟子みたいなものでな。」
「なるほど、かしこまりました。そういうことでしたらどうぞお通り下さい。」
「うむ、ご苦労。」
「あ、ありがとうございます~。」
「…………。」
三人が関所の門を潜ろうとすると、番兵の一人がヴォルフを呼び止める。
「ヴォルフ様!」
「ん?」
「ご存知かと思いますが、現在ロートル王国領内に魔物の出現報告が多数あります。」
「うむ、聞いておる。」
「くれぐれもお気をつけ下さい。」
「ふむ、忠告感謝する。」
三人が門を潜ると今度はロートル王国の番兵が立ち塞がる。
「ようこそロートル王国へ。歓迎します。」
若い番兵がヴォルフに言う。
「我が国へは何用で?」
「フォフォフォ。年寄りの道楽でな。年甲斐もなく諸国を旅したくなっての。」
「そうでしたか。後ろの二人は付き添いですか?」
「は、はい!そうです!」
「…………。」
「孫が付き添ってくれるというのでな。ありがたいことじゃ。」
「ははは、そうですか。」
「近くに村か町はあるかの?」
「ええ、ここから北に半日ほど歩くと小さいですが村がありますよ。」
「おお、それはありがたい。感謝します。」
「御老人、現在ロートル領内は魔物の出没が頻発に報告されています。我々兵士もその都度対処していますが、くれぐれもお気をつけ下さい。暗くなる前には村へ着かれるように。」
「ほう、魔物とな。それは恐ろしい。気をつけますじゃ。」
「ありがとうございます~。」
こうして無事三人は国境を越えた。
関所が見えなくなるまで歩いたところでアナスタシアがローブを脱ぐ。
「ふう……。無事通れたね。」
「フォフォフォ。お疲れ様でした。」
「緊張しました~。」
三人は番兵の言う通り北にある村を目指すことにした。
「それにしても、本当に魔物が出るんだね。」
「そうですな。気をつけましょう。」
「暗くなる前にって言ってましたしね!」
カタート山脈に沿って三人が北上する。
この数日で歩き慣れたのかかなり余裕をもって進んでいると、アナスタシアが何かを見つけた。
「ねえ、あれなんだろ?」
アナスタシアの指差す先を見るがヴォルフとプリシアには何も見えない。
「なにか白い物が……。」
再び二人が目を凝らすが何もない。
アナスタシアが気になるというのでそちらに向かってみることにした。
近づいていくと段々ハッキリと見えてくるようになる。
「馬車だ!横転してる!」
アナスタシアが走り出す。
ヴォルフとプリシアも慌てて後を追う。
「これは…………。」
「ひ、酷い……!」
アナスタシアとプリシアが青ざめる。
横転した馬車の側には御者らしき男が血まみれで倒れていた。
ヴォルフが駆け寄り息を確かめるがどうやら手遅れだったらしい。
「いったい何があったんだ……。」
アナスタシアが呟く。
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