姫様、忠告される
「万に一つも勝ち目はない。」
わかってる。
「遭遇したら迷わず逃げろ。」
わかってるって。
「なんだ?不服そうだな。」
アナスタシアはグリッドとの会話を思い出していた。
「いや~別に~。」
「おい、目をそらすな。」
グリッドが溜め息をついた。
「ここ数日の成長なんて奴との力の差を埋めたうちに入らん。」
「ぶ~。」
アナスタシアが頬を膨らませる。
「だが……。」
「だが?」
「一矢報いることくらいなら……。」
「くらいなら?」
アナスタシアが聞き返す。
「お前は一度圧倒的な力の差で敗北している。そういう相手と二度目に闘う時はつけいる隙ができるやもしれん。」
「つけいる隙?」
「ああ、ただし二度目だけだ。もし生き延びる事ができても次からは警戒されるからな。」
「チャンスは一度だけって事……ですか。」
「一度倒した相手に対しては無意識に器を決めてしまうものだ。それが圧倒的な差なら尚更だ。こいつはこの程度だとな。」
「器……。」
「そうだ。お前がつけいる隙があるとすれば、その器を越えた分だ。奴がお前に対して定めた器の大きさを越えた分だけ一矢報いるチャンスになる。」
「それなら!」
この一週間で身につけた技がある。
それを使えば……。
「ただし、奴が並の使い手ならな。」
「え?」
「奴がその程度の使い手なら通用するかもしれんが……まぁ無理だろうな。」
「そんな!じゃあ……。」
「だから奴が油断しているだけでは足りない。」
油断だけでは駄目。
なら、それに加えて。
「敢えてこちらも力を隠して更に油断を誘う……ですか?」
アナスタシアが答える。
グリッドは顎に指を添えながら言った。
「50点。」
「え!?」
「そんな事をすれば逆に警戒される。なんの成長もしていないのに再び挑んでくるなんて不自然極まりないだろ。」
「じゃあ……。」
「全力は出す。ただし奥の手は隠せ。お前の限界を見誤らせろ。」
「限界を見誤らせる……。」
「ああ。全力を出しても自分には到底及ばないという余裕を与えるんだ。更に……。」
「まだあるんですか!?」
「当たり前だ。それくらい無謀な事をしようとしてるって事だ。」
「うぅ……。」
「で、自分には遠く及ばないと自覚させた上で奴に魔装具を使わせろ。」
グリッドが言い放った。