姫様の策
(どういうつもりだ……?)
前方を走る馬を追いながらエドワードはアナスタシアの不可解な行動に戸惑う。
(なぜ国境へ向かわずに反対の方角へ。)
エドワードが疑問に思うのも無理はない。
国境方面に丘を下れば関所はもう目と鼻の先なのだ。
関所まで逃げ切ればそこには国境警備兵がいる。
(駆け込まれたら厄介だったのだが……。)
しかし、アナスタシアはどんどん関所から離れていく。
「つまり、ただ逃げているわけではないということか。」
エドワードは走りながら呟くと右手に持つ細剣を強く握った。
このまま馬を駆るアナスタシアと追いかけっこをしているわけにはいかない。
「やむを得ん。望み通り見せてやろう。」
幸い関所からはかなり遠ざかった。
この辺りなら多少派手に闘っても騒ぎを聞き付けられる事はないだろう。
「魔力……解放!」
途端、エドワードの持つ細剣から凄まじい魔力が溢れだす。
「ーー!?」
無論、前方を走るアナスタシアにもただならぬ気配は伝わる。
「凄い……なんて魔力!これが魔装具……。」
グリッドとから聴いてはいたが実際にその魔力を直に感じると魔装具の恐ろしさが肌で伝わってくる。
しかし、
(思った通り!これで……。)
確証はなかった。
もしかしたら……そう思い付いただけだ。
(私を倒す為には使わなくても、逃げられるのを防ぐ為には使う。私との勝負はどうでも良くても、魔導書はそうはいかない……でしょ?)
逃げたふりをしながら距離をとれば足止めの為に大技を使ってくるかもしれない。
そう考えたアナスタシアは闘いの最中に目の端に繋がれた馬を見つけた時にこの策が浮かんだのだ。