姫様、走る
(やられた!?)
エドワードは瞬時に後方に跳び、感覚を研ぎ澄ませる。
(どこから来る?)
目を閉じたままアナスタシアの攻撃に備える。
(甘く見られたものだ。この程度で……。)
闇の中での闘いは良くあることだ。
敵の気配や殺気を察知して闘うなどというのは今までに幾度も経験してきた。
(来いっ!間合いに入れば即座に貫く。)
エドワードは剣を構え反撃を狙う。
だが、アナスタシアの追撃が来ない。
(千載一遇の好機のはず。なぜ……?)
「ーー!!」
「まさか!?」
馬の嘶きが聴こえた。
「おのれ!」
予想外だ。
まさか逃走するとは。
いや、勝ち目がない以上逃げるのは当然の選択。
だが、この娘はそうしないだろうという思い込みがあった。
エドワードは未だにぼんやりとした視界の中で走り去る馬を捉えた。
(繋いでおいた私の馬に目を付けていたのか。)
「してやられたな。」
エドワードはそう呟くと馬を追って走り出した。
「来たか。」
アナスタシアが後ろを振り向きながらエドワードが追って来ているのを確認する。
「なんて速さだ……。」
アナスタシアは素直に驚嘆する。
こちらは馬を駆っているにも関わらず引き離せない。
「ぶっつけ本番だったけど上手くいったな……。」
"閃光"の魔術は実戦で使うのは初めてだったが狙い通りに発動できた。
プリシアがよく使っていたので自分もできないかと練習していたのだ。
だが、それも僅かな間の足止めにしかならなかった。
「ごめん、もう少しだけ頑張って!」
アナスタシアが馬の首筋を優しく撫でる。
馬は低く唸った後にアナスタシアの言葉に応えるようにより一層力強く走った。
(あとは……さぁ、かかってこい!)