姫様、倒れる
「ぐっ……うぅ……。」
うつ伏せに倒れたアナスタシアが痛みに呻く。
「勝負有りだな。アルマデルは……。」
エドワードはアナスタシアが投げ捨てた荷物袋に目を遣る。
「あそこか。」
踵を返し去っていくエドワード。
(無事……とは言えんな。だがこれで任務は……。)
落ちていた荷物袋を拾い上げようとしていたエドワードの動きが止まる。
「信じられん。」
視線の先には剣を支えに立っているアナスタシアがいた。
「はぁ……はぁ……ぐっ……。」
辛そうに肩で息をしているアナスタシア。
(あの傷で……。そうか!回復魔術か!)
エドワードは先程傷を負わせた箇所にアナスタシアが手を当てているのを見て立ち上がれた理由に得心する。
(だが、あれ程の傷を短時間で立ち上がれるまでに治すとは。)
「はぁ……はぁ……ま、まだだ。まだ勝負は……うっ!」
一歩踏み出そうとしたアナスタシアだが、そのばに膝をついてしまう。
(いや、治したとはいえんか。)
エドワードがアナスタシアに向かって言う。
「もう立ち上がるな。これ以上は命に関わる。」
「これくらい……たいしたこと……!」
再び立ち上がるアナスタシア。
「何故だ?君らにとってはそこまでする事ではないだろう。命を掛けるなど馬鹿げている。」
「ああ、そうだな。」
「ならば……。」
大人しく渡せ。
その言葉を遮るようにアナスタシアが言った。
「私は……私は約束したんだ!」
アナスタシアの身体から再び闘気が吹き出す。
「まだ闘るというのか。」
「もちろん。」
アナスタシアが剣を構える。
「…………いたしかたない。」
応えるようにエドワードも剣を抜いた。
「手足の一本は覚悟しろ。」
(やっぱり……アレは使ってこないか。)
アナスタシアはエドワードの握る細剣を注視する。
魔装具についてはグリッドから教わった。
(私相手じゃ使う必要がないってことか。)
只でさえ力の差がある上に、そんなものを使われては勝ち目などあるはずがない。
だが、
「使わないのか、それ?」
敢えてアナスタシアは問いかけた。