Interlude
「あ~。通過記録を見て来たんだが、それらしきご婦人はいなかったよ。」
「そうですか……。」
「と言うか、昨日からここを通ったのはエスナールから来た行商の一段と逆にこちらからエスナールに向かった旅人二人だけだな。」
「旅人?」
「ん?ああ、だがアンタが探してるような人じゃなかったよ。確か、爺さんと孫くらいの娘だった。」
(老人と娘……。)
「そうですか。ありがとうございました。奥方様が国境を越えていないとわかっただけでも助かりました。」
「ははは、そりゃ良かった。アンタも大変だな。」
エドワードが兵士に会釈し立ち去ろうとすると兵士が呟いた。
「おや、帰ってきたか。」
腰にぶら下げていた望遠鏡を手に取る兵士。
「南の方で魔物が出たと報告があってな。うちからも何人か向かわせてたんだ。うん、間違いない。」
聞いた訳ではないが兵士は説明してくれる。
元来話好きなのかもしれない。
「魔物ですか。それは物騒ですな。」
「ああ、最近は特に多いからアンタも気を付けなよ。」
「ええ、ありがとうございます。」
エドワードは兵士達が帰って来た方角に目を向ける。
(ん?)
なんとなく違和感がした。
「すみません。それ、お借りしても?」
「ん?これ?いいぜ。」
兵士はすんなりと望遠鏡を貸してくれる。
エドワードも同じように望遠鏡を覗いてみる。
「…………!!」
(あれは!?)
「おや?兵士ではない方がいらっしゃいますが。」
努めて冷静にエドワードが言った。
「ああ、アイツね。ありゃあ兵士じゃないよ。」
(間違いない。あの男だ。)
兵士に紛れてこちらに向かってきている男。
エドワードが倒した三人のうちの一人。
あの武闘家の青年だった。
「なんか変わった奴でな。ほら、さっき話したエスナールに向かった老人と娘、その二人の連れだったんだよ。」
「ほう。連れですか。それが何故?」
「それがなぁ。なんかもう一人連れがいるそうなんだ。どうもはぐれたらしくてな。ここで待つんだって居座ってんだよ。」
「はぁ。それはまた変わった御仁だ。」
「だろ?そこにあるテントで寝泊まりしてんだよ。」
兵士の指差す先。
関所から少し離れた場所には焚き火の跡とテントがあった。
「流石になにもない場所で野宿ってのは気の毒だからさ、関所に備えてあったやつを貸してやってるのさ。」
「なるほど。それで何故その御仁が皆さんと一緒に?」
「それがさぁ。礼代わりに自分が魔物を倒してやるって言って無理矢理ついていっちまったんだよ。でもまあ、無事に戻ってきたみたいで良かった。」
「…………そうですな。」
エドワードは望遠鏡を返すと兵士に礼を述べてその場を立ち去った。