姫様、進む
遠くから鳥の鳴き声が聴こえる。
長閑な風景の中を歩くアナスタシア。
(この丘を越えれば。)
地図ではこの先の丘を越えて少し進めば渓谷だ。
「みんな……。」
アナスタシアは緩やかな坂道をしっかりした足取りで登り始めた。
空は快晴。
穏やかな陽気に少し汗ばむ。
眩しい日射しから目を庇うように額に手を翳して前方を見上げると、人影があった。
アナスタシアは足を止める。
すると人影がこちらに向かって歩いてきた。
「…………。」
前方を見つめたまま動かないアナスタシア。
「待っていたぞ。」
人影はアナスタシアに話しかけた。
「ずっと?ここで?」
アナスタシアが問いかける。
「ああ。なかなか有意義な時間だった。星を眺めながら人生について考えたよ。」
人影……エドワードは肩を竦め冗談めかして言った。
「会えてよかった。君がここを通るかは賭けだった。」
「お前がこの丘でずっと待ってたのを想像すると少し笑えるね。」
「心外だな。これでも自然の中で過ごすのは好きなんだ。」
「そう?なら邪魔はしないからどうぞキャンプの続きを楽しんだらいい。」
「ああ、そうするよ。君からアルマデルを回収したらね。」
二人の間を一陣の風が吹く。
「ーー!」
アナスタシアは肩に背負っていた荷物袋を放り投げ剣を抜いた。
「大人しく渡す気はないか。」
「当然だ。」
「死にかけたというのに……ん?」
エドワードがアナスタシアを見て僅かに驚いた。
「ほう。この数日で何があった?」
アナスタシアを包む闘気を感じとったエドワードが問う。
「秘密。」
アナスタシアが大きく踏み込むとエドワードに斬りかかった。
鳴り響く金属音。
アナスタシアの斬撃は素早く抜き払われたエドワードの細剣に受け止められた。
(この娘……!?)
「たぁぁぁ!!」
アナスタシアが気合いと共に剣を振り下ろす。
「しっ!」
エドワードは細剣でそれを捌き即座にアナスタシアの背を狙い斬りかかる。
「っと!!」
すぐに身体を反転させ剣で防ぐアナスタシア。
両者後方に跳んで距離をとる。
「ふぅ。」
アナスタシアはエドワードを見据え剣を正面に構える。
再戦の火蓋が切って落とされた。