姫様、一人旅
「あー……そうでしたね……。」
ポリポリと頬を掻くアナスタシア。
「お前なぁ……。」
グリッドが溜め息をついて呆れる。
「一応言っておくが、今のお前に勝ち目はないぞ。」
「うん……。」
「死にたくなければ迷わず逃げろ。」
「わ、わかりました……。」
アナスタシアはギュっと拳を握る。
「ほら、さっさと行け。」
「え~。そんなに急かさなくても~。」
「懐くなっ!」
そんなやり取りをしながら外に出る二人。
小屋の前で向かい合う。
「先生、ありがとうございました!」
「ふん。まあ精々足掻いて生き延びてみろ。」
「ふふ。はい!それじゃ!」
そう言うとアナスタシアはグリッドに背を向け歩き始めた。
すぐに背後でドアの閉まる音が聴こえた。
「早っ!!」
振り向くと既にグリッドはいなかった。
※※※※※
「う~ん。こっちか。」
地図から顔を上げ空を見上げるアナスタシア。
「南はあっちだから……。」
アナスタシアは改めて国境の関所を目指し歩を進める。
エドワードと闘った場所まで戻るか迷ったがすぐに考え直した。
(みんなは無事にエスナール王国に行ったはずだ。なら私も急いで向かわないと。)
地図によるとここから1日も歩けば関所に着く距離だ。
(一人旅……久しぶりだな。)
こうして一人でいると、アイソルの城を抜け出したばかりの頃を思い出す。
(みんな、心配してるかな……。)
しばらく地図を頼りに歩いていると、見覚えのある場所に出た。
「あ!」
目の前には関所に通じる路が伸びていた。
一週間前、エドワードに襲撃された際にオッグスと共にに逃げた路だ。
「この先か。」
路の先に目を凝らすが、まだ関所は見えない。
アナスタシアは関所の方角に向かって歩き始めた。
※※※※※
路から少し離れた所に生えた樹に凭れながら、パチパチと鳴る焚き火を見つめるアナスタシア。
辺りはすっかり暗くなり、今日はこの場所で休む事にしたのだ。
グリッドに持たせて貰った食料と水があるので食事には困ることはなかった。
アナスタシアは明日は日の出と共に出発しようと思い、早めに眠ろうと目を閉じる。
焚き火の音、どこかから聴こえる猛禽類の鳴き声、頬を撫でるそよ風、全てが心地よい。
久しぶりの一人旅で思っていたよりも疲れていたのかすぐに睡魔はやってきた。
(明日には国境か。何もなければ……。)
アナスタシアは眠りに落ちた。