姫様、去る
翌朝。
「じゃあ……いろいろお世話になりました。」
ペコリと一礼するアナスタシア。
「まったくだ。気紛れで助けてみれば、まさか一週間も居座られるとはな。」
「ハハハ……。」
アナスタシアは渇いた笑い声を漏らす。
「あの……。」
「ん?」
グリッドを見つめながらアナスタシアが言った。
「いつか……いつかまたここに来てもいいですか?」
「は?何故だ?」
「私、また先生に修行をつけてもらいたいんです!今度はもっと本格的に!」
「…………ふぅ。」
グリッドは煙草を取り出しと口に咥え火を着ける。
「あ、あの……。」
「ふぅ~。それは無理だな。」
「え!?」
途端にアナスタシアの表情が曇る。
「駄目……ですか……。」
そんなアナスタシアを見下ろしながらグリッドが言う。
「次にここに来ても私はいない。」
「え?」
「世界中を旅してるんだ。そろそろ他の地へ行こうかと思ってな。」
「旅……?」
「ああ。だからここに来るのは勝手だが私はいない。」
「そう……ですか。あっ!じゃあ私達と……。」
「断る。」
アナスタシアの言葉を遮り言い放つグリッド。
「う~~。」
「私には私の目的がある。」
「ちぇっ!」
「大きな街に行けば剣術道場なんていくらでもあるだろ。そんなにやりたきゃそこで……。」
「それじゃ駄目なんです!」
今度はアナスタシアがグリッドの言葉を遮った。
「先生に教わりたいんです!」
「たいんですって……何故だ?」
「だって先生は……。」
森で助けられた時から思っていた。
グリッドの闘う姿に見とれてしまった。
この一週間でグリッドの底知れぬ強さを感じた。
もしかしたら、この人は自分の目指す先にいるのではないか。
「ふぅ……。」
煙を吐き天を仰ぐグリッド。
「まあ、そうだな。もし……。」
「もし?」
「もし縁があって何処かで会うことがあれば……。」
「あれば?」
「その時は修行をつけてやるのも吝かではない。」
「ほ、本当に!?」
グイっと顔を寄せるアナスタシア。
「えぇい!鬱陶しい!」
「約束!約束ですよ!」
「はいはい。」
面倒臭そうに返事をするグリッド。
「まぁ、その時までお前が生きてればだけどな。」
「う~。なんて嫌な事を……。」
「バカ。お前は絶賛狙われ中だろうが。」
「あ……。」
アナスタシアは目下自分に迫る危機をようやく思い出した。