姫様、全力
(わかってたことだけど……。)
まったく歯が立たない。
闘気を帯びたアナスタシアは通常よりも運動速度は上がっているはずだ。
それでもグリッドの攻撃を防ぐので精一杯だ。
「仕方ない。」
アナスタシアは精神を集中し身に纏う闘気量を限界まで増やす。
(この状態ならもって3分か……一気にカタをつける!)
「はぁぁ!!」
気合いとともにグリッドに向かっていくアナスタシア。
「短期決戦か。いい判断だ。」
迎え撃つグリッドは無防備に立ったままだ。
自分の間合いに入ったアナスタシアがグリッドを前後左右から攻める。
バキンッ!バキンッ!バキーンッ!
その全てを手斧で受け止め捌くグリッド。
(にわか仕込みの魔術剣は先生には通用しない。だったら!)
ひたすらに斬撃と刺突を繰り出し続けるアナスタシア。
「!?」
振り下ろした剣が捌かれ体勢が崩される。
(しまっ……!)
鋭く風を切る音がした。
グリッドの蹴りがアナスタシアを捉える。
「うぐっ!」
脇腹に鈍い痛みが走る……と同時にアナスタシアは蹴られた方向に跳んだ。
「はぁ……はぁ……あっぶな……。」
間合いをとり追撃を警戒するアナスタシアにグリッドが言う。
「思ったよりいい反応だ。だがそろそろ限界だろ。」
(正解……。次が最後だ。)
又しても距離を詰め接近戦を挑む。
「さっきと同じか?このままだと自滅するぞ?」
(わかってる。そろそろ限界が……。)
荒い呼吸を落ち着かせるように深呼吸するアナスタシア。
「魔術剣・火!」
再びアナスタシアの剣が火に包まれる。
グリッドが僅かに眉をしかめた。
「またそれか。つまらんな。」
「…………。」
アナスタシアはグリッドの言葉に応えずに重心をやや落として剣を構える。
「ーー!」
アナスタシアが間合いを詰める。
あらゆる方向、角度から攻撃するが全て見切られる。
「ふぅ。鬱陶しいだけか?」
グリッドが手斧で大きく薙ぐ。
アナスタシアが後ろに跳んでかわし、すぐに一歩踏み込んだ。
(浅い。空振りだぞ……。)
グリッドが期待外れだと思った瞬間、
「闘気……。」
アナスタシアの声が聴こえた。
(ーーこいつ!?)
「斬!!」
至近距離でアナスタシアの闘気斬が放たれた。