姫様、挑む
魔物を退治して以来、アナスタシアは村の人気者となった。
村人達は代わる代わる小屋を訪れては料理や食材をおいていくのだ。
親に連れられた子供達は、物珍しそうにアナスタシアの修行風景を見学していく。
その度にアナスタシアはなんとも言えない気恥ずかしさを感じるのであった。
そして……。
「いきます!」
「ああ。」
アナスタシアの全身を闘気が包む。
と、同時にグリッドに向かって大きく踏み込み斬りかかる。
それをなんなくかわすグリッド。
アナスタシアは大振りの反動を利用して身体を一回転し、そのまま連撃へと繋げる。
「はぁ!てや!」
気合いを込めた斬撃は数日前より格段に鋭く速い。
しかし、グリッドはそれを最低限の足捌きと身のこなしで避ける。
(流石だ。まったく当たる気がしない。)
アナスタシアは素直に感服する。
それでも果敢に攻め続けるアナスタシア。
大きく跳躍しグリッドの頭上で宙返りしながら斬りかかる。
バキンッ!
グリッドは振り返りもせずに片手に持った手斧で受け止めた。
「しっ!」
着地と同時に踏み込み剣を振り下ろすアナスタシア。
「はっ!!」
渾身の斬撃は手斧に受け止められてしまう。
「ぐぅぅ!!」
力比べになり両手で剣を押すアナスタシアだが、片手で持った手斧はピクリとも動かない。
(なんて膂力……!)
「ーー!?」
背筋に冷たい物が流れた時には遅かった。
腹部に衝撃が走る。
「がはっ!」
身体が浮き後方に吹き飛ぶアナスタシア。
地面を転がりながらすぐに起き上がる。
(掌底!?くっ……!)
片膝をついたアナスタシアは前方のグリッドを見上げる。
(大きい……。)
揺るぎない山のように感じる。
それがそのまま力の差なのだろう。
「でもっ!」
アナスタシアは剣を握り締める。
「魔術剣・火!」
剣が火に包まれる。
「ーーほぅ。」
グリッドが面白そうに呟く。
「はぁぁ!!」
接近戦をしかけるアナスタシアと受け立つグリッド。
火の粉を撒きながら振るわれるアナスタシアの斬撃を先程よりも距離をとりながら避けるグリッド。
「ふっ……熱いな。」
そう呟くと今度はグリッドが距離を詰め攻めてきた。
長閑な丘の上に不釣り合いな金属音が響き渡る。
グリッドの攻撃をギリギリの所で受け止めるアナスタシア。
(くっ……速い!斬り返す隙がない!)
ギィィン!!
鈍い金属音が響き、グリッドの振り下ろした手斧をアナスタシアが剣で受け止めた。
「え!?」
アナスタシアが目を見開く。
アナスタシアの剣が、手斧を受け止めた箇所から凍りついていく。
「ちぃっ!」
慌てて後ろに跳んで間合いをとるアナスタシア。
(手斧を介して私の剣に魔力を流し凍らせてきた……。)
アナスタシアは改めてグリッドに戦慄した。