Interlude
砂漠の国エスナール王国。
その王都アステリアにヴォルフはいた。
「……そうですか。いやいや、気にせんで下され。また、明日参りますじゃ。」
酒場のマスターに礼を述べるとグラスに残った酒を飲み干し店をでる。
「ふぅ……。またプリシアが悲しむのぅ。」
ヴォルフは思い足取りで宿へと戻った。
「ふぅ。」
またしても深い溜め息をついて部屋のドアを叩く。
「儂じゃ。戻ったぞ。」
部屋中からパタパタと足音がすると、すぐにドアが開いた。
「ヴォルフ様!どうでしたか!?」
出迎えたプリシアが開口一番言う。
ヴォルフは無言で首を振り部屋の中へ入る。
「そ、そうですか……。」
プリシアは肩を落とす。
「ふむ。それらしき人物は見かけてないようじゃ。」
アステリアに到着して以来、ヴォルフとプリシアは毎日街に繰り出しては聞き込みをしている。
無論、アナスタシアを探しているのだ。
「あの!私、もう一度行ってきます!」
そう言って出ていこうとするプリシアをヴォルフが慌てて呼び止める。
「今日はもう遅い。また、明日……いや、明日は儂一人でよかろう。お主は部屋で待っておれ。」
「そんな!?」
ヴォルフに詰め寄るプリシア。
「どうしてですか!私も……!」
「プリシアよ。そんな状態ではいつ倒れてもおかしくない。それこそ姫様を探すこともままならんぞ。」
ヴォルフの言うとおり、ここ数日でプリシアはすっかりやつれてしまった。
食欲もないようでほとんど食事をとっていない。
ヴォルフが勧めて必要最低限だけなんとか食べている有り様だ。
夜も眠れないのか目の下には隈ができている。
確かにこんな状態で炎天下の街に出たらいつ倒れてもおかしくない。
「でも!でも……!!」
プリシアは鼻を啜ると泣き崩れた。
椅子に座るヴォルフの膝に顔を埋め声を出して泣いている。
「うぅ……姫様……姫様……。」
ヴォルフは泣きじゃくるプリシアの頭を撫でながら小さな子供に言い聞かせるように語りかける。
「安心せい、プリシア。姫様なら大丈夫じゃ。」
「でも……でもぉ……。」
「姫様は王都で会おうとおっしゃった。ならば儂ら臣下はその言葉を信じるだけじゃ。」
「信じる……?」
「そうじゃ。主の身を案じるのも臣下の務めなら、主の言葉を信じるのも同じく臣下の務めじゃ。」
「は、はい……。」
プリシアは涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげる。
「それにあの姫様じゃぞ。今頃、砂漠の魔物をバッタバッタとなぎ倒しながら王都に向かっておるじゃろうて
。」
そう言うとヴォルフはぎこちなくウィンクをした。
「ふふ。そうですよね。姫様ですもんね!」
ようやくプリシアの顔に微かな笑顔が戻る。
「そうじゃそうじゃ。あの姫様じゃぞ。どれ、よく眠れるように薬膳茶を淹れてやろう。」
「はい、ありがとうございます。」
「フォフォフォ。たしか……ここに。」
ヴォルフは荷物から薬草を探しだすと準備を始める。
(そう、姫様が無事なのは間違いない……。待っておりますぞ姫様。)
その夜はヴォルフの薬膳茶が効いたのかプリシアも深く眠りにつくことができた。