姫様、語る
「で、魔物がガーッて突っ込んできたんですよ!そこで私が……。」
夕食の席。
アナスタシアは身振り手振りを交えつつグリッドに魔物との闘いの内容を話す。
向かいに座りながら話を聴いているグリッドがワインの注がれたグラスを口に運ぶ。
「先生!聴いてます?」
「あーはいはい。聴いてる聴いてる。」
「それで、私が後ろに跳んで……。」
アナスタシアの話は尚も続く。
グリッドは呆れたように溜め息を吐く。
テーブルにはご馳走の数々が並べられている。
乗りきらなかった分がまだまだ炊事場に置いてある。
全て村人達がお礼にと持ってきた物だ。
(どうするんだ、こんなに……。)
アナスタシアが小屋に戻って来た後に、次々と村人達がやって来て置いていったのだ。
最初は笑顔で受けとっていたグリッドも次第に顔がひきつり気味になった。
当のアナスタシアは戻ってくるなりすぐにいつもの修行を始めた。
「私!今すっごく良い状態なんです!」
そう言うと小屋を出ていった。
確かにグリッドもアナスタシアの変化には気がついた。
敢えて言ってやる事でもなかったので何も言わなかったが。
「そこで思ったんですよ!もしかしたら剣を火で纏って斬ると同時に燃やせればって!」
「ほう。」
グリッドが微かに興味を示す。
「それで、ぶっつけ本番でやってみたらできたんですよ!」
興奮したアナスタシアがバンッとテーブルを叩く。
「闘気も魔力も元は同じもの。生命エネルギーでしたっけ。」
「ああ、そうだな。」
「だから、いつも火術を使う感覚で剣に意識を集中してみたんです!そうしたら……。」
アナスタシアが誇らしげに剣を構える真似をする。
「魔術剣だ。」
グリッドが呟く。
「え?」
「それは魔術剣という技だ。」
「魔術剣……ですか?」
「ああ。扱う武器に魔術を上乗せする技だ。」
「へぇ~。魔術剣かぁ。」
世紀の大発見かと思っていたアナスタシアは既にある技だと聴かされ少し残念そうである。
「なるほど。自力で魔術剣に辿り着いたか……。」
「え?」
「使えたのは火術だけか?」
「は、はい。」
「ふむ。なら明日からそちらの修行も平行してやるといい。魔術剣は使いこなせれば戦闘の幅が格段に広がる。」
「わ、分かりました!」
(魔術剣……魔術剣か。)
計らずも新たな技を憶えた事に己の成長を感じるアナスタシアであった。