姫様、村に戻る
「お、おーい!!帰って来たぞー!」
村に向かって歩いてくるアナスタシアを見つけた村人が大声で周りに知らせる。
「本当だ!無事だったか!」
「ちょっと、怪我してんじゃないの!?」
「お、俺!行ってくる!」
「僕も!」
「おい、誰か診療所に走れ!」
大慌てでアナスタシアの元に数人の男達が向かった。
「わわ……な、みんな……どうしたの?」
駆けよってきた村人達に困惑するアナスタシア。
「どうしたもこうしたもねーよ。あんたを迎えに来たんだ!」
「そうだよ。す、すぐに診療所に連れてってやるからな!」
「え?だ、大丈夫だよ。」
アナスタシアは両手を振って断ろうとする。
実際、それほどたいした傷は負ってはいない。
闘いの最中に負った傷も魔術で治療できた。
「なに言ってんだよ!そんな格好で!」
村人達が口々に心配する。
確かに顔や服は血や土で汚れてはいるが。
「あの、本当に平気だから!」
「無理すんなって!ほら!」
中でも一際体格の良い男がアナスタシアに背を向けてしゃがみこんだ。
「ほら、すぐ診療所連れてってやるからな!遠慮すんな!」
どうやらアナスタシアをおぶっていこうとしているようだ。
(どうしよう……本当に大丈夫なんだけど……。)
他の村人達も心配そうにアナスタシアを見つめている。
(仕方ないか……。)
アナスタシアは観念して運んでもらうことにした。
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……。」
若干の気恥ずかしさを感じながら男の背に身体を預ける。
「よし!行くぞ!」
こうしてアナスタシアは大急ぎで村の診療所へと運ばれた。
※※※※※
「本当にありがとうございました。」
対面に座るアナスタシアに村長が頭を下げる。
診療所に運ばれたアナスタシアだが、たいした怪我もないということですぐに村長の家へと報告に向かった。
道中、村人達からの労いと感謝の言葉に応えながらようやく村長宅へとやって来れたのである。
「今日は是非うちで休んでいって下さい。小さな村ですが皆もお礼の席を設けたいと……。」
「いえ、お気持ちはありがたいんですが。」
「え?」
「先生……シスターの小屋に戻ります。」
「し、しかしそんなすぐに……。」
引き留めようとする村長にアナスタシアは微笑む。
「村の皆さんも色々と大変でしょう。お気持ちだけありがたく受け取らせてもらいます。それに、小屋でやらないといけないこともありますから。」
「そ、そうですか……。そういう事でしたら無理にお引き留めできませんな。」
渋々引き下がる村長。
「じゃあ、私はこれで。」
「はい、この度は本当にありがとうございました。村人一同、このご恩は……。」
「そんな大袈裟な。」
苦笑いしながらアナスタシアが家の外に出ると村人達が待っていた。
アナスタシアが小屋に戻ると伝えると皆一様に残念がり引き留めたが最後は村長と同じく納得してくれた。
せめてものお礼にと後で小屋にご馳走を持っていくと言うのでアナスタシアは笑顔で礼を言いつつ村を出て小屋への丘を登り始めた。