姫様、はしゃぎ過ぎ
アナスタシアとヴォルフが買い物から帰ってくると既にプリシアは部屋で二人を待っていた。
「お帰りなさいませ。姫様、ヴォルフ様。」
「ああ、ただいま。悪かったね待たせて。」
「すまんな遅くなって。儂らも旅装束を買いによってきたんじゃよ。」
「いえいえ、それよりお気に召す物はみつかりましたか?」
「うん!これ。」
アナスタシアが抱えていた布袋をテーブルにドカッと置く。
「さて、夕食まで少し休もうかの。」
「かしこまりました。では後程。」
アナスタシアの買い物に付き合いヘトヘトのヴォルフが自室へ戻る。
「フフフ。みてみてプリシア。」
アナスタシアがウキウキしながら布袋から剣や肩当て、マントと籠手、旅装束を取り出しベッドに並べる。
「まあまあ、姫様ったら。」
「じゃあさっそく……。」
アナスタシアが着ていた服を脱ぎ去る。
お城にいた時のようにプリシアに手伝われながら新しい服を着てみる。
なるほど、たしかにこちらの方が身軽に動けそうだ。
さらに銀の肩当てと裏地が紅の漆黒のマントを身につける。
籠手をはめて最後に腰の左側に剣を吊るす。
「フフン。どう?」
姿見の前でポーズをとるアナスタシア。
「素敵です姫様!格好いいです~!」
プリシアが拍手しながら感想を述べる。
何時間も武具屋の店主と格闘しながら選んだ一品だ。
剣は通常の長さよりやや短めの物でアナスタシアの腕力でも剣速が保てるものだ。
鎧はアナスタシアの縦横無尽に立ち回る剣技には合わないので肩当てのみ購入した。
「うんうん、いい感じ♪」
ご機嫌なアナスタシアが満面の笑みで頷く。
「そういえば、プリシアも服買ったんでしょ?見せてよ~。」
「えっ、今ですか?」
「うんうん。今見たい!」
「え~明日になればわかりますよ?」
「えー。いいじゃないか。みーせーてーよー。」
アナスタシアがプリシアに迫る。
「も~、仕方ないですね~。」
プリシアが根負けして明日のためにクローゼットにかけてあった服を持ってきた。
今着ている王宮のエプロンドレスとは違い、腰部分に帯のある緑のワンピースだった。
姿見の前で新品の服に袖を通すプリシア。
「ど、どうでしょうか?」
少し照れて頬を赤く染めながらアナスタシアの意見を求める。
「うん、いいじゃない!なんか新鮮!似合ってるよ!」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。素敵だと思うよ。」
「も~姫様ったらからかわないでください~!」
顔を真っ赤にし左右に身体を揺らすプリシア。
どうやらこれがプリシアの照れた時の癖らしい。
この後もお互いの格好を誉め合い照れ合うという不毛な時間を過ごすこと数十分。
はしゃぐ二人は先程から何度もドアがノックされている事に気づかなかった。
「二人ともおらんのか……?入りますぞ~!」
「「あっ……。」」
「………………二人とも何をしとるんじゃな……?」
※※※※※
夕食の席で明日からの旅について話す三人。
アナスタシアとプリシアは先程の服装で食堂まで降りてきた。
「明日からは歩き旅になりますな。今日はしっかり休んでくだされ。」
「うん、朝のうちに向かうの?」
「いえ、朝は薬と保存食を買いに行こうかと。街をでるのは昼前くらいかと。」
「関所までどれくらいかかりそうですか?」
「歩いてみないことにはわからんが、四日くらいかのう。」
「四日かぁ。まあノンビリいこうよ。」
「そうですね。安全第一でいきましょう。」
食事が終わるとアナスタシアとプリシアは部屋に戻り、ヴォルフは食後のワインを一人楽しんだ。
娘二人は風呂を済ませベッドに入り明日からの旅の話題で盛り上がった。
「いよいよって感じだね……。」
「そうですね。姫様、楽しみですか?」
プリシアが横になりアナスタシアを見て尋ねる。
アナスタシアも寝返りをうちプリシアを向き答える。
「色々かな……。楽しみなのもあるし、大変な事になたなぁってのもあるし。プリシアやジイを巻き込んじゃったしさ。」
「姫様……。」
「でもさ、後悔はしてない。」
真っ直ぐな目でプリシアを見つめるアナスタシア。
「プリシアこそ本当に良かったの?危ない目にあうかもしれないのに。」
「そうですね。でも私の知らないところで姫様が危ない目にあう方がつらいですから。」
「そっか……。」
こういうところが姉みたいなんだよなぁとアナスタシアは思う。
普段ノンビリしてるように見えるプリシアだがアナスタシアの事に関しては頑固な一面もあったりする。
(姉妹か……。)
「もう寝よっか。明日から大変だぞ。」
「はい、お休みなさいませ姫様。」
アナスタシアがベッドサイドの蝋燭を吹き消す。
部屋に暗闇と静寂が訪れた。
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