姫様、やってみる
魔物の執拗な攻撃は尚も続く。
アナスタシアはなんとか距離をとり魔術で攻めるが悉く打ち落とされてしまう。
(このままじゃ無駄に体力を失うだけ……。)
「キィィィ!」
またしても魔物がのけぞり胸部から針を打ち出してくる。
それを剣で打ち落とす。
奇しくも互いに同じ様な状況になってしまうアナスタシアと魔物。
(遠距離からの攻撃は決め手にならない。仕留めるには近接攻撃しかない……。)
アナスタシアの膂力では弾かれてしまう。
接近状態で魔術を放とうにも魔物の攻撃が激しく危険過ぎる。
(打つ手なし……か。)
「ーーいや。」
1つの閃きが過った。
「できる……か?でも……もしかして……。」
確証はない。
ただの閃きだ。
しかし、
「やってみる価値はある!」
アナスタシアは剣をギュッと握る。
(集中しろ!)
剣を巡る闘気に意識を集中する。
「キィィィ!!」
不穏な気配を感じたのか魔物が腕を振り回しながら襲いかかってくる。
アナスタシアも魔物に向かって走る。
攻撃を紙一重でかわしながら魔物に近接するアナスタシア。
大きく跳躍すると、魔物の頭部と胸部を繋ぐ箇所に斬りかかる。
「火よっーー!」
アナスタシアが叫ぶと剣が火を纏った。
「たぁぁ!」
振り下ろされた剣は魔物の首に深々と刺さる。
「キィィィィィ!!」
アナスタシアの渾身の斬撃はそれでも魔物の頭部を斬り落とせなかった。
しかし、深く刺さった剣から魔物の身体に火が燃え移った。
アナスタシアはすかさず剣を抜き大きく跳び退く。
「キィィィ!キィィィ!!」
苦しげにのたうち回る魔物。
羽を広げると飛んで逃走を図る。
「いまだっ!」
無防備に晒された魔物の胸部。
「終わりだっ!ーー闘気斬!!」
放たれた斬撃は頭上を飛ぶ魔物の胸部を深く斬り裂いた。
断末魔を上げて落下する魔物。
「やったか!?」
致命傷を受けた魔物は成す術もなく焼かれていく。
「できた……。」
そう呟くとゆっくり魔物に近づいていく。
「キィ……キィ……。」
やがて魔物は動かなくなった。
アナスタシアはそれを確認すると剣を鞘に納めた。
「やったんだ……一人で。」
しばらく立ち尽くしていたアナスタシアだが、くるりと魔物の死骸に背を向けて村へと歩きだした。