姫様の成長
「ふぅ……。」
アナスタシアは魔物を見据えたまま静かに息を吐く。
自分でも意外なくらい冷静だ。
二度の斬撃が通用しなかった。
以前なら持っ慌てていただろう。
今はその事実を受け止めて思考できる。
"頭を使え、バカ!"
グリッドの言葉が過る。
(考ええますよーだ!)
魔物が大きく鎌の様な腕を振るいアナスタシアを襲う。
(速いっ!)
魔物の動きは身体の大きさに反して素早かった。
6本の足をガサガサと動かし獲物と認めたアナスタシアに向けて突っ込んでくる。
「ぐっ!」
左右から襲い来る鎌を剣で受け止め、弾き、かわす。
(この腕……危険だ。)
魔物の両腕はそれだけが別の生き物の様に激しくアナスタシアを狙って襲いかかって来る。
(距離を……。)
一旦間合いをとろうとするアナスタシアの心中を知ってか知らずか、魔物は離れようとする獲物を執拗に追って来る。
「あぁ!ヤな奴!」
思わず口に出したアナスタシアの脇腹を鎌が掠り、服を僅かに切り裂いた。
(仕方ない!)
アナスタシアは魔物の腕に注意を払いながら考える。
(こいつが虫、甲虫なんだとしたら……外側が硬いのはわかる。)
それでも剣を一撃を弾くのは異常だが。
「なら狙うはっ!」
アナスタシアは鎌を掻い潜り魔物の右側に回り込む。
魔物が向きを変える前に、
「たあぁぁ!!」
腹部から生える足の1本、その関節部分を狙う。
「キィィィ!!」
魔物が甲高い声を上げると、ボトッと足が地に転がった。
すかさず後方に跳び間合いをとるアナスタシア。
「やった!」
魔物は足を切り落とされたダメージの為か追っては来なかった。
その代わり、威嚇するようにアナスタシアの方を向きながら腕を振り回している。
「流石に1本くらいじゃあ駄目か。」
アナスタシアが次の手を考えていると魔物腕を振り上げて腹部を見せた。
「キィィ!!」
ずぼっ!
「なっ!?」
切り落とした部分から新しく足が生えた。
粘液が光る新しい足をウネウネと動かしながらゆっくり元の姿勢に戻る魔物。
「ズルいっ!そんなのあり!?」
アナスタシアがそう言うと同時に魔物が羽を広げて震わせ始めた。
「逃がすかっ!」
飛ばれると厄介だと判断したアナスタシアが魔物に向かって走るが、それよりも早く上空へと舞い上がる。
「くっ!」
アナスタシアが見上げると、6つの赤い目と視線が合った。