姫様、待つ
グリッドは村長の家に行くと魔物が再度襲ってきた時の為にアナスタシアを残していく旨を伝えた。
最初は心配そうにアナスタシアを見ていた村長だったが、グリッドがそう言うのならと自分の家に滞在するように申し出た。
話が終わるとグリッドはさっさと丘の上の小屋へと帰って行った。
「一人で……か。」
アナスタシアは自分に用意された部屋でベッドに寝転びながら呟いた。
村長の家には年老いた村長と息子夫婦、二人の孫が住んでいた。
魔物の襲撃で息子は怪我を負ったとの事だが幸い軽傷で夜には家に戻って来ていた。
村長一家と共に夕食をとるとアナスタシアは魔物の襲撃にそなえ早々に部屋へと引き上げた。
(考えてみれば一人で魔物と戦うのは初めてよね……。)
アナスタシアは今までの戦いを思い浮かべる。
確かに、初めて魔物と戦った日から今まで常に仲間と一緒だった。
(ジイ……プリシア……グレン……。)
これまでみたいな援護はない。
グリッドは一人でやれと言った。
そう言った以上、あの人は絶対に手助けしないだろう。
それならそれで望むところだ。
アナスタシア自身もここ数日の修行を経て、自分がどこまでやれるのか試してみたいと思っていた。
(まさかいきなり実戦とは思わなかったけど……。)
アナスタシアは自分の胸に手を置いた。
鼓動が少し激しい。
恐怖だけではない感情が確かにある。
(来るなら来い……か。)
アナスタシアは窓の外へ目を向けた。
ニヤリと嗤っているような月が夜空に浮かんでいた。
※※※※※
翌朝、村の誰よりも早くにアナスタシアは外にいた。
朝靄が煙る中、散歩するように村内を歩く。
空気が肌寒く澄んでいる。
昨晩は緊張もあり眠りは浅かったがそれでも全く眠気はなかった。
不謹慎とは思うが魔物の襲来を心待ちにしている自分がいる。
早く……早く戦ってみたい。
そもそも連日の襲撃があるという保証はない。
こうやって見廻りの真似事をしているものの無駄足の可能性も十分にあるのだ。
(魔物の気分次第か……。)
そう思った時、通りすぎた鶏小屋が騒がしくなった。
アナスタシアは反射的に振り返る。
(なんだ?)
小屋の中では数羽の鶏達がバサバサと羽をばたつかせながら思い思いに鳴いている。
アナスタシアは周囲を見渡してみる。
(…………!?)
東の空に黒い影が見えた。
(鳥……?こっちに向かって来てる。)