姫様、残る
村に着くと診療所に案内された。
既に魔物は去った後らしく、グリッドと医師が怪我人の治療にあたっていた。
「これは……。」
アナスタシアは診療所内を見渡した。
それほど広くない部屋には怪我人達が寝かされている。
ベッドは足りておらず、ほとんどの人が床に寝かされていた。
「おいっ!デイル、大丈夫か!」
アナスタシアと一緒に来たロロイが上半身に包帯を巻かれ寝かされている男に駆け寄る。
男はロロイの声に反応せずに静かに息をたてながら眠ったままだ。
「あぁ、ロロイさん。弟さんなら大丈夫です。」
「先生!?」
「重傷ですが命に別状はありませんよ。」
「そ、そうですか……先生、恩にきるよ。」
ロロイが医師に頭を下げる。
「いや、シスターの適切な処置のおかげですよ。礼ならシスターに。」
「そうなんですかい!シスター!ありがとうございます!」
他の村人の治療をしていたグリッドにロロイが大声で礼を言う。
「いえ、間に合って良かったです。」
グリッドが微笑みながら言う。
「先生!」
アナスタシアがグリッドに声をかけるとグリッドは立ち上がった。
「ここは……ひとまず落ち着きましたね。後はお任せしますね。」
グリッドは医師に向かって言った。
「はい、シスターありがとうございました。本当に助かりましたよ。」
「いえ、また手が必要な時は呼んで下さい。」
一礼し診療所を出るグリッド。
アナスタシアも後を追う。
「先生、魔物は!?」
外に出るなりアナスタシアが尋ねた。
「私が来た時にはもういなかった。餌を確保したら満足したんだろ。」
「そうですか……。」
「死人が出なかったのは不幸中の幸いだったな。」
「虫みたいな魔物って。」
「らしいな。」
「また襲って来ると思いますか?」
「その可能性は高いな。魔物にしてみたら良い餌場をみつけたんだ。喰い尽くすまで何度でも来る……かもしれんな。」
「やっぱり……。あのっ!」
「なんだ?」
「私、村に残ります!」
アナスタシアの言葉を聴きグリッドは腕を組む。
「ふむ……まあ好きにしろ。」
「え?あ、は、はい……。」
他人事の様なグリッドの言葉に拍子抜けするアナスタシア。
「あの、先生は?」
「私は戻る。」
「え!?」
「まあ、せいぜい頑張れ。」
「か、帰っちゃうんですか!?」
「ああ。村長に話くらいはつけといてやる。後は一人でやれ。」
グリッドはそう言うと歩きだした。
「あっ、先生!」
アナスタシアは慌てて後を追った。