姫様、村へ
ロロイは語った。
早朝、村に悲鳴が響いた。
ロロイもその声で目が覚めたらしい。
何事かと目を擦りながら家の外に出た。
既に何人かの村人が様子を見に出てきていた。
「あんれぇ。なんか声が聞こえたんだけども。」
隣の家に住むお婆さんも窓から顔を出して辺りを見回している。
「ああ。男の叫び声が聴こえた気がしたけどなぁ。」
ロロイがお婆さんと首を傾げていると、
「ギャーー!!」
再び男の悲鳴がこだました。
今度は確かに聴こえた。
ロロイは声のした方角へ目を向けた。
と同時に、轟音と共に村の東側にある牛舎が崩れるのが見えた。
「な、なんだっ!?」
遠くから牛達のひきつった様な鳴き声が聴こえてくる。
この頃にはほとんどの家の住人が外に出てきていた。
ロロイは近所の男衆と共に村の東側へと向かった。
※※※※※
「それで、何があったんですか?」
アナスタシアが続きを促すとロロイは震え始めた。
「ば、化け物がいたんだ!」
「化け物?魔物ですか?」
「魔物……そうか、あれが魔物ってやつか。」
ロロイは頭を抱える。
「どんな奴だったんですか?」
「あ、ああ……なんていうか……黒くて脚が何本も付いてた。羽があって飛び回ってたな。」
ロロイは記憶に浮かぶ魔物の姿を何とか言葉に置き換えようとする。
「あれだ!虫!人よりも大きな虫!そいつが牛を持ち上げながらくるくる崩れた牛舎の上を飛んでたんだ。まるで餌を品定めするみたいに!」
「虫……ですか。」
(虫型の魔物か……そんなのもいるのか。)
「で、地面には何人も倒れてたんだ。中には村に滞在してる兵隊さんもいた。」
その光景を思い出したのかロロイは身震いする。
「集まってきた俺らを見ると、化け物は牛を2頭も抱えて飛んでいっちまいやがった。」
語り終えるとロロイは深い溜め息をつき立ち上がった。
「もう行かねぇと。水、ありがとよ。」
「事情はわかりました。歩けますか?」
「ああ、大丈夫だ。」
二人は急いで村へと向かった。