姫様、事件発生
次の日、事件が起きた。
アナスタシアが朝から薪割りをしていると、丘をかけ上がってくる人影に気がついた。
「あれ?」
様子がおかしい。
村の人だと思うが、小屋を目指し一目散に走ってくる。
アナスタシアは目を凝らして見てみる。
(なんだ……なんであんなに必死に。)
どうやら男のようだ。
よほど慌てているのか何度も躓き転びそうになりながら走ってくる。
ただならぬ様子を感じ取ったアナスタシアはグリッドを呼びに小屋へ走った。
すると、小屋のドアが開きグリッドが外に出てきた。
「あっ!先生!」
アナスタシアの呼び掛けには応えず、走ってくる男の方に顔を向けたままのグリッド。
「先生、あれは……。」
「ああ。」
男はグリッドの姿を見つけると力を振り絞るように走った。
グリッド達の前までくるとゼェゼェと肩で息をしながら男は話し出す。
「シ、シスター!たた助けて……はぁはぁ……助けて下さい……はぁはぁ……村に……!み、みんながっ!はぁはぁ……シスターを呼びに……!」
かなり焦っているのかどうも要領を得ない。
グリッドは落ち着かせるように静かに言った。
「村に何かあったのですね。わかりました、すぐに伺います。」
「あ、ありが、ありがとうご、ございます!」
男は何度も頭を下げる。
「私は先に村に向かいます。アナスタシアさん、ロロイさんは少し休んで落ち着いてから来て下さい。」
「で、でも……俺も……!」
「アナスタシアさん。ロロイさんが"落ち着いてから"一緒に村に来てくれますか?」
グリッドがアナスタシアに言った。
「わかりました。」
アナスタシアが頷くとグリッドは村に向かって走っていった。
「さあ、少し休んで下さい。今、水を持ってきます。」
「す、すみません……はぁ……はぁ……。」
男は地面に座り込んで息を整える。
アナスタシアが小屋からコップ一杯の水を持って来て渡してやると礼を言って一気に飲み干した。
(村になにがあったんだ……。)
アナスタシアはロロイの呼吸が落ち着くのを待ってから尋ねる。
「あの、村に何かあったんですか?」
ロロイを落ちつかせるため、グリッドの真似をしてなるべく穏やかな口調で話すアナスタシア。
ロロイはゴクリと唾を飲み込んでから言った。
「ば、化け物が……化け物が村に……それでみんな大怪我を
……。」
恐怖を思い出したのかロロイが身震いする。
「化け物……。」
アナスタシアはそう呟くと、丘の下に見える村を見つめた。