姫様、ヘトヘト
「やれやれ……。」
夜、グリッドが台所から夕食を運んで来るとアナスタシアがテーブルに突っ伏して寝息をたてていた。
「おい。」
テーブルに料理を置きグリッドかアナスタシアの肩に手を伸ばしかけたが、途中で思い止まる。
「…………。」
今日は丸一日闘気を練る修行を課した。
付き合ってやったのは気紛れだが。
(文字通り気力を使い果たしたか。)
グリッドは奥から蝿帳とカーディガンを持ってくる。
テーブルの料理に蝿帳を被せ、寝ているアナスタシアの肩にかけてやる。
「すぅ……すぅ……すぅ……。」
グリッドは灯りは消さずに、アナスタシアを残して調合部屋へと消えた。
※※※※※
翌日からはまた一人での修行となった。
ただし、グリッドからは昨日の闘気を維持する修行も平行して行うように課せられた。
「闘気斬!」
放たれた闘気の刃が空中で薪の端を削った。
「あ~!惜しい!!」
アナスタシアは地団駄を踏む。
悔しがるアナスタシアだが技はかなり上達していた。
100発100中とは言えないが9割方斬撃を当てることはできるようになった。
が、薪を真っ二つというわけにはいかず精度はまだまだ未熟ではあるのだが。
「ふぅ~。」
アナスタシアは大きく息を吐くと剣を鞘に納めた。
「よし!次!」
薪割り修行を切り上げると木陰へと歩いて行くアナスタシア。
時刻は昼過ぎ。
アナスタシアは一日の修行を3つに分ける事にした。
朝から日没まで薪割り、闘気の維持、薪割りの順に行うことを自分に課したのだ。
疲労の無い朝に威力と精度の必要な薪割りをし、時間をかけて闘気を整え、また薪割りをする。
このサイクルで進めてみることにした。
流した水分を補充するために置いてあった水筒の水を一気に飲み干す。
「よしっ!」
アナスタシアは剣を構えると意識を集中する。
(これくらい……か。)
昨日グリッドに言われたように全力時の半分程に闘気を調整する。
(この状態を維持……。)
少しでも気を抜くと闘気が膨れ上がったり反対に減ってしまう。
アナスタシアは兎に角今の状態を維持する事に集中する。
まるで水がギリギリまで注がれたグラスを両手に持って吊り橋を渡っているような感覚。
水を溢さないようにゆっくり慎重に進んでいく。
(少し多い……か……駄目だ、減らし過ぎ……。)
アナスタシアは己を覆う闘気の増減を細心の注意を払い調整する。
体力よりも気力を酷使する修行だ。
しかし、僅かながらに昨日よりは早く正確出きるようになっている。
その事実がアナスタシアを奮い立たせるのであった。