姫様の剣
「うーん……これなんてどうかな?」
「ダメダメ、そいつぁお嬢ちゃんにはでかすぎるぜ!」
アナスタシアの買い物は尚も続く。
半分はお節介で気の良い店主のせいもあるが。
「じゃあこれは?これ一番高価な剣だし切れ味いいんじゃないの?」
「バカ野郎!武具ってのは高けりゃいいってもんじゃねぇ!却下だ却下!」
「え~!もうどれならいいのよ!」
商売する気があるのかないのかわからない店主と、早く自分の剣を手にいれたいアナスタシアの言い合いを少し離れて見守るヴォルフとプリシアと店員。
「こりゃ時間かかりそうだな~。」
「まあ気長に待つしかないのう。」
「そうですね~。お嬢様も楽しそうですし。」
「ときにプリシア。お主もその格好ではこの先大変じゃろう。今のうちに旅用の服を買ってきたらどうじゃ。」
「私ですか?私はこれでも……。」
そういうプリシアは城で侍女として務めていた時の格好だ。
特別動きにくいわけではないが旅用でもない。
そもそもプリシアは自分の服をほとんど持っていない。
ずっと城務めのプリシアは洒落た服などにはあまり興味がなかった。
「いやいや、その格好ではいざという時に動きづらかろう。ほれ、これで買って来ると良い。」
ヴォルフがプリシアに金貨を渡そうとする。
「いえ……でも……。」
遠慮するプリシアにヴォルフが諭す。
「プリシアよ、旅に同行するのに足手まといにならぬよう努力するのではなかったのか?」
「え……そ、それは勿論!」
「ならば、素直に身支度を整えてくるのじゃ。」
少し意地悪な言い方をしてしまったと思ったのかヴォルフが似合わないウィンクをしながら言う。
「フォフォフォ。よしよし、ではこれで選んでくるといい。」
プリシアの手を取り金貨を握らせる。
「近くに服屋はあるかのう?」
ヴォルフが店員に尋ねる。
「ああ、店を出て左へ進むと時計塔がある。その向かいに街で一番大きい服屋があるよ。」
「だ、そうじゃ。こっちもまだまだ時間がかかりそうじゃし宿屋で落ち合うとするかのう。」
「はい、わかりました。じゃあお言葉に甘えさせて頂きますね。」
「うむうむ、まあ楽しんでくるがよい。」
プリシアが一礼して自分の服を買いに武具屋を出ていく。
「さて……。こっちはいつ決まるかのう。」
ヴォルフは欠伸を噛み殺しアナスタシア達を眺めるのであった。
※※※※※
「ハァハァハァ……こ、これならどうだ!」
アナスタシアは何十本目かの剣を店主に見せる。
「ん?どれどれ……ほう……。」
店主がアナスタシアと剣を交互に見る。
「よし、ちょっと構えてみろ。」
「わかった!どう?」
アナスタシアが剣を正面に構える。
「うむ、悪くねぇ。自分ではどうだ?」
「うーん。確かにしっくりくるような……気がしなくも……ない?」
アナスタシアのぼんやりとした返答に頷く店主。
「ああ、それで良い。武具ってのは"なんとなく"自分に合うのが一番いいのさ。値段や肩書きなんて関係ねー。」
「は~……なるほどねぇ。」
アナスタシアが店主の持論に感心する。
「その剣が一番格好良く構えてたぜ。」
「そうかなぁ、でもこいつなら一緒に戦える気がするよ。」
「はっはっは!嬉しいこと言うじゃねーか。よし、そいつが嬢ちゃんの剣だ。」
アナスタシアと店主が笑い合う。ようやく終わったかとヴォルフが声をかける。
「お嬢様、決まりましたかな。それでは支払いを済ませて宿に……。」
「うん!決まったよ"剣は"。」
「へ?」
「ん?だから決まったよ"剣は"。」
「あー……そうでしたか……剣は決まりましたか。」
ヴォルフがげっそりした顔で言う。
「よし、次は防具だ。店主のおじさん頼んだよ。」
「おう!任せとけ!」
こうしてあと数時間アナスタシアの買い物は続き、二人が宿屋に戻った頃にはすっかり日が沈んでいた。
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