姫様の雨の日
翌日は朝から雨が振り続いた。
アナスタシアはそんなことにはお構い無しに剣を手に外に出ようとしたが、グリッドに首根っこを掴まれ止められた。
「風邪でもひかれたらかなわん。」
「え?その時は先生の薬が……痛っ!」
拳骨を落とされ仕方なく諦めるアナスタシア。
「でも、この雨止みそうにないですよ。一日なにもしないなんて……。」
「……ちっ。仕方ない。」
グリッドはアナスタシアを部屋の真ん中に立たせた。
「あの、何を?」
「構えてみろ。」
アナスタシアは言われるままに剣を抜き構える。
「よし、闘気を通わせろ。」
アナスタシアが頷くと、身体から闘気が溢れ腕から剣へと伝わっていく。
(ふむ。まだ流れはぎこちないが量はなかなかだな。)
グリッドが顎に指を当て僅かに思案する。
アナスタシアから放たれる闘気が窓を揺らしグリッドの長い金髪を靡かせる。
「そのまま。」
グリッドはそう言うと椅子を持って来て本を読み始めた。
「え?」
「やめるな。そのまま続けろ。」
「は、はい。」
アナスタシアは言われた通り剣を構えたまま闘気を放ち続ける。
1分……2分……3分……。
「弱めるな。最初の量を維持しろ。」
「!?……はい!」
僅かに気を緩めた瞬間にグリッドが言った。
アナスタシアは改めて集中する。
目の前にいるグリッドを見つめながら気を放ち続けるが次第にアナスタシアの呼吸が乱れてくる。
「はぁ……はぁ……。」
(まだ……まだもう少し……。)
暫く耐えたがついに限界が来て膝をついてしまう。
グリッドがページをなぞる指を止める。
「ふむ。8分弱か。今ので7割くらいか?」
「はぁ……はぁ……は、はい!」
的確に己の力量を言い当てられ戸惑うアナスタシア。
「つまり、お前が全力で気を放ちながら闘える時間はもっと短いという事だ。」
「………。」
その通りだ。
動かない状態でこれだ。
実戦で動きながら、更にこの状態で闘気斬を放つとなると……。
「最低でも20分は今の状態を維持し続けろ。」
「に、20分!!」
「とりあえず半分の力でやってみろ。」
「半分……わかりました。」
アナスタシアは再び剣を構える。
(これくらいか……。)
先程よりも穏やかな闘気がアナスタシアの身体と剣を包む。
「それを限界まで維持する。10分休んだらまた限界までだ。」
「はいっ!」
アナスタシアは剣を握りしめた。