姫様、呆れる
アーダを見送るとアナスタシアは薪割り修行を再開した。
(先生……何者なんだろう……。)
アーダから聴いた話ではグリッドは旅の途中で村に立ち寄り、村人達に乞われてここに滞在しているという。
考えてみれば不思議な人物ではある。
修道女を名乗ってはいるが剣術、戦闘技術に長けている。
いや、長け過ぎている。
酒も煙草も嗜みおおよそアナスタシアの知る聖職者のイメージからかけ離れている。
(う~ん。気になる……。)
とは言え、グリッドに聞いても教えてはくれまい。
アナスタシアは雑念を払うように両手でパンッと頬を叩き修行に戻るのであった。
※※※※※
日が沈んだ頃にグリッドは帰ってきた。
アナスタシアが小屋の中でテーブルに突っ伏してうとうとしていると外に人の気配がした。
(先生?でも……。)
複数の気配。
するとドアがガチャリと開いた。
「あっ、先生。」
アナスタシアが顔を上げる。
「すみません。わざわざ運んでいただいて。」
「いやいや、シスターにはこんな重い荷物持たせられませんよ!」
「でも、大変だったでしょう?」
「はっはッは!たいしたことありませんって!なぁ?」
「ああ!こんなの軽い軽い!」
二人の男がグリッドの後ろにいた。
「ありがとうございます。助かりました。お二人とも逞しいんですね。」
グリッドが微笑む。
男達は顔を紅くしながら笑っている。
「どうぞそこに置いて下さい。割れ物もありますのでゆっくりお願いしますね。」
「あっ!はいはい!任せて下さい。」
「なんせ薬瓶ですもね。村のためにこんなに買い込むなんてシスターは真面目で優しいんですね~。」
デレデレしながら男達は口の締めてあるズタ袋を倒れないように壁に立て掛けた。
「そんな、私に出来ることをしているだけです。皆さんのお役に立てていればいいのですが。」
「なにを言うんですか!シスターのお陰で皆助かっとります!」
「そうですよ!シスターは村の……いや!俺の、て、て、天使です!」
「なっ!お前!なに抜け駆けしてんだ!」
揉め出した男達にグリッドげ微笑みながら言う。
「ふふ……お二人ともお上手なんですから。」
「い、いや……ハハハ。」
「まぁ……なぁ?ハハハ。」
「あら、もうこんな時間。お二人とも村にお戻りにならないと家族の方が心配されますわ。」
「あ、ああ!そうですね!じゃ、じゃあ俺らはこれで!」
「そうだな。シスター、いつでも頼って下さいね!」
鼻歌混じりに村に帰っていく二人をグリッド笑顔で手を振り見送るとドアを締めた。
「ん?」
相貌を逆三角形にして自分を見つめるアナスタシアに気付くグリッド。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「いや~別に~。」
すっかりいつものグリッドに戻っていた。
いや、村人にとってはあっちがいつものグリッドか。
「薬瓶って……薬の材料買ってきたんですか?」
「ん?ああ……。」
グリッドは立て掛けられている大きめのズタ袋を片手でヒョイッと持ち上げテーブルに置いた。
袋の口を締めていた紐をほどき中の物をテーブルに並べていく。
酒瓶、酒瓶、、煙草、煙草、酒瓶…………。
(こ、この人は……。)
アナスタシアはさっきの村人達に同情を禁じ得なかった。