姫様、知る
「へ~、そんなことが。」
アーダの話を聴いたアナスタシアは紅茶を一口啜った。
「それでさぁ、その後もシスターの指示通りに薬を処方してねぇ。みんなすっかり良くなったのさ。うちの主人も今ではピンピンしてるよ!」
アーダが笑いなが言う。
成程、アーダの夫もグリッドに助けられたのか。
グリッドへの心酔っぷりも頷ける。
「それで先生は?」
「シスターは村を去るつもりだったみたいだけど勿論村の皆は引き留めたさ。特に怪我人の家族はね。」
辞去しようとするグリッドを無理矢理引き留め数日の間交代でもてなしたらしい。
それが終わると今度は村長と村唯一の医者が直々に頼み込んだ。
この村に残ってもらえないかと。
聞けば、このような事は初めてではないようでその度に村人の命が奪われていった。
医者曰く、グリッドの医療知識、取り分け薬に関する知識は自分より遥かにある。
どうか助けると思ってこの村に留まって欲しいと。
「で、先生はなんて?」
アナスタシアがアーダに尋ねる。
今度はアーダが紅茶をグイッと飲んだ。
「それがね……。」
それでもグリッドは申し訳なさそうに村を去ると言った。
すると村長は地につくかと思う程頭を下げて頼み込んだ。
これにはグリッドも困り果て最後には首を縦に振った。
思えば村長は村の現状に責任を感じていたのかもしれないとアーダは沁々言った。
「ただし、ずっとはいられない。自分の知識を医者に伝え終わるまでって条件だったみたいでね。」
「知識を?」
「ああ。それが終わったらまた旅に出るって。」
「そう……なんですか……。」
「でさぁ、今度は村人総出でシスターの家を建てるってことになったんだけどさ。」
「ああ、そう言えばなんで先生はここに?」
村長の一声で村にグリッドの住む家を建てる事になった。
当然反対する者などおらず、むしろ我先に協力すると言い出した。
皆、立派な家を建ててやると。
しかし、グリッドは首を横に振った。
自分はいずれ村を去る。
立派な家は身に余ると。
さらに村の中ではなくこの先の丘の上に建ててはくれないかと言った。
「この場所ですか?」
「うん。ここだよ。」
何故丘の上に?
村人はそう言ったがグリッドはあそこの方が森に近いし便利だと言った。
村人からしても森で切った木材を村まで運ばなくていいので助かる話ではあった。
「それでここに……。」
アナスタシアは座ったまま部屋の中を見渡した。
通りで、山小屋にしては広く住みやすいとは思った。
風呂も炊事場も生活に必要な物はなんでもある。
それも村人の厚意というわけだったか。
「で、シスターは定期的に村に薬草や薬を届けてくれたり、診療所の先生に薬の知識を教えたりしてるのさ。」
話し終えるとアーダは大きく息を吐いた。