姫様と来客
「はぁ……はぁ……。」
ペタんと地面に座り込むアナスタシア。
何度も繰り返したお陰でようやく宙を舞う薪を斬ることに成功した。
「はぁ……やっと……。」
代わりに凄まじい疲労感と腕の痛みが襲ってきた。
魔力や闘気を使う修行はまだまだ負担が大きいらしい。
「しかたない、少し休むか……。」
アナスタシアはヨロヨロと立ち上がると小屋に向かって歩きだす。
いつの間にか太陽は真上を通りすぎていた。
(なにか食べようかな……。)
あまりの疲労感に食欲はないが、何か腹に入れておかなくては。
そう思ったがふと気づいた。
(あっ……先生いないんだった。)
「作ってはくれてないよね……。」
となると自分で何か作らないといけない。
どうしたものかと考えていると、視界の端に丘を上がってくる人影が見えた。
「あれ?」
こちらに気づいたのか大きく手を振っている。
人影は女性のようだ。
まっすぐこちらに向かってやって来る。
「ふぅ~。着いた着いた。」
ふくよかな体型の中年女性はアナスタシアに笑いかけた。
「あの……貴女は?」
「なんだい、憶えてないのかい?まあ、仕方ないわね。ほら、こないだシスターと村に来た時に。」
「あぁ、あの時。」
顔は思い出せないがどうやら村で先日村で会った人らしい。
「うんうん。元気になったんだね。良かったわね~。」
女性はバンバンとアナスタシアの尻を叩いた。
「キャッ!は、はい……なんとか。」
「ははは!シスターの薬は良く効くからねぇ。あんたも良い人に助けられたねぇ。」
「あの、先生は今留守で……。」
グリッドに用事が会って来たのかと思ったアナスタシアの言葉を遮り女性が言う。
「先生?ああ、シスターの事ね!知ってるよ~今日は町に行ったんだろ?」
「は、はい。どうして……。」
「そりゃぁあんた、朝うちに来て馬を借りていったんだから。」
なるほど、そう言うことか。
「え、じゃあ何を……?」
「ははは!いやねぇ、シスターからあんたが一人で留守番だって聞いたからさ!」
女性はそう言うと手に持っていたバスケットを差し出した。
かかっていた布を捲るとサンドイッチが入っていた。
「腹空かしてないかと思ってね。なんせ怪我人だと思ってたから料理なんて出来ないと思ってたから。」
「あ……ありがとうございます。」
不思議だ。
先程まで全くなかった食欲が一気に戻ってきた。
「私……料理下手だから。」
けっして出来ないとは言わない。
「ははは!そりゃ良かった!じゃあさっそく食べておくれよ。」
アナスタシアは食事を置いて帰ろうとする女性を引き留めた。
グリッドに許可なく小屋に招いていいものか迷ったが、せっかく良くしてくれた女性をこのまま帰すのは憚られた。
(まあ、後で謝ればいいか。)
二人は遅めの昼食をとる事にした。