姫様の一人修行
次の日もアナスタシアは一人で修行していた。
「夜には戻る。」
グリッドはそう言うと早朝から出掛けてしまった。
どこに行くのかと尋ねと、一番近い街まで買い物にいくという。
丘の下の村で馬を借りていくそうだ。
アナスタシアに留守番を任され、昨日に引き続き薪を投げては剣を振っていた。
「闘気斬!」
放たれた刃は薪にかすることもなく空を斬った。
「ふぅ……。」
剣を下ろし手で額の汗を拭う。
「うーん。あと少しなんだけどなぁ。」
動く標的に斬撃を当てるのは思っていた以上に難しかった。
(やっぱり剣速か……。)
アナスタシアが自覚するように、放った斬撃の速さが問題だった。
どれだけ薪の位置を正確に予測したところで、斬撃の到達速度が毎回違うのでは一向に当たらない。
(う~ヒントが欲しい……。)
しかし生憎グリッドは一日出掛けている。
"自分で考えろアホ"
グリッドの顔が脳裏に浮かんだ。
「はいはい。やりますよ~だ。」
アナスタシアは剣を納め、地面に転がっている薪を拾い上げ放り投げると右手を前に突き出した。
「火球!」
拳大の火球が薪に向かって飛んでいく。
火球は薪を外れ暫く飛んだ後にかき消えた。
もう一度同じようにやってみる。
今度はさっきよりもかなり近づいた。
さらにもう一度。
放たれた火球は薪を捉えた。
地面に落ちパチパチと燃える薪を急いで消しにいくアナスタシア。
(なるほど。こっちの方が扱いが慣れてるってことか。)
ヴォルフから指導を受け始めて結構経つ。
実戦もそれなりに経験している。
集中し、魔力を溜め、放つ。
この一連の流れが身体に染み付いてきているようだ。
放つ速度が感覚としてわかる。
「結局、身体で覚えるしかないか。」
とは言え、無策では何度やっても駄目だろう。
なにか取っ掛かりがあれば。
(魔力を手に集中し術に変換し放つ。これで一つの流れだ。)
ならば、闘気斬は?
「闘気を剣に集中し……刃に変換し……剣を振るい、放つ。」
剣を振るう。
(剣を振るう速さと斬撃の飛ぶ速さを比例させれたら……。)
確かに、グリッドが斬撃を飛ばして見せた時も凄まじい剣速だった。
剣速が速ければ斬撃は速く飛び、剣速が遅ければ遅く飛ぶ。
これなら動く標的にも当てやすい。
(これだっ!)
光明が差した気がした。
アナスタシアは剣を抜く。
(兎に角、何度も繰り返して剣速と斬撃を飛ばす速度を身体に刻むんだ。)
アナスタシアは薪を放り投げるのを止め、再び切り株に立ててる事にした。
「よし!やるかっ!」
それから数時間、アナスタシアは疲労で闘気が放てなくなるまでひたすら剣を振るい続けた。