姫様、新たな課題
「名前はともかく……。」
グリッドが積んである薪から一本を手に取る。
「うぅ……はい。」
せっかく付けた技名を否定され落ち込むアナスタシア。
「今のままでは実戦では使い物にならん。」
グリッドがアナスタシアから剣を受け取ると手に持っていた薪を大きく放り投げる。
「え?」
アナスタシアが薪の行方に目を向けると隣にいたグリッドが片腕で剣を振るう。
「あっ!?」
宙を舞う薪が真っ二つに割れると地面に落ちた。
「……。」
アナスタシアがゴクリと唾を飲む。
(まさか……。)
「最低でもこれくらいは出来んと話にならん。」
そう言うとグリッドはアナスタシアに剣を渡し小屋へと戻っていった。
「やっぱり……。」
新たに出された課題に気が遠くなるアナスタシア。
なにしろ、難易度が格段に上がっている。
確かに実戦となると相手は動く。
動かない薪を斬れたところで通用しないだろう。
「だからって……。」
動く相手を斬る。
「あぁ!!もうっ!やるよ、やりますよーだ!」
アナスタシアはドシドシと地面を踏み締めながら薪を取りに行くのだった。
※※※※※
「あぁ!!もうっ!やるよ、やりますよーだ!」
アナスタシアの声を聴くとグリッドは苦笑した。
(騒がしい奴だ……。)
グリッドは煙草を咥え火を着ける。
椅子に座るとテーブルに肘をつき窓の外に顔を向ける。
(ふむ。カンは悪いが飲み込みは早いか……。)
アナスタシアを評しながら煙を吐く。
「あの時……。」
※※※※※
グリッドは数日前にアナスタシアを助けた日を思い出す。
あの日、偶然薬を作るのに足りない薬草を採りに行った。
いつものように森を歩いていると珍しく人の気配がした。
しかも複数の。
かなり離れた場所だがグリッドにはその気配から闘いの最中であるとわかった。
だが、厄介事に巻き込まれるのは御免被る。
グリッドは無視して必要な薬草を探していると、
(ーーー!?)
異様な気を感じた。
「なんだ!?この気は……?」
先程感じた闘いの気配がする方から感じる。
只事ではない。
徐々に膨れ上がる異質な気。
グリッドは気配のする方向に走っていた。
禍々しく、神々しく、異質で不気味でおおよそ人が放つものとは思えない。
(しかし、どこかで……。)
そう思った瞬間、その異様な気は急速に小さくなり感じられなくなった。
(これは……いったい……。)
拓けた場所に出たグリッドの前方には壮年の男とさらにその向こうには傷を負った少女がいた。