姫様、閃く
翌日もアナスタシアは一人で薪割りに精を出していた。
「う~ん。」
腕を組んで立ち尽くすアナスタシア。
昨晩グリッドから貰ったヒントの意味がまだ分からずにいる。
(闇雲に剣を振ってもダメ。考えろ……先生のくれたヒント……。)
昨夜のやり取りを思い出す。
(私と先生の違い……。)
「って、そんなのいっぱいあるよ~。」
そもそも比べるまでもない。
グリッドの魔力操作は桁違いだ。
火から氷、そして風への変化など見事過ぎて見惚れてしまった程だ。
「はぁ……。」
それに比べて自分は……。
アナスタシアが掌を見る。
(まだまだ術名を言わないとイメージが固定できない…………ん??)
アナスタシアが何かを閃く。
「あれ?術名を言葉にするのは魔力を魔術へ変換するのをイメージしやすくするためで……。」
記憶を遡り、ヴォルフから教わった事を思い出す。
"高位の魔術師は詠唱も術名も無しに大抵の魔術が使えます。翻って、未熟なうちは詠唱により精神統一を行い集中力を高め、行使したい術名を言葉にすることでイメージを補助し威力も増します。当然、発動まで時間がかかりますし術名を言葉に出せばどのような術か露見するリスクがありますが。"
(闘気の扱いも同じなら!)
アナスタシアは急いで切り株の上に薪を立てた。
※※※※※
バンッ!
勢い良くドアが開かれた。
「ん?」
採ってきた薬草を煎じていたグリッドが手を止める。
激しい足音がする。
「先生っ!」
アナスタシアが顔を上気させながら顔を出した。
「なんだ騒々しい。」
「先生っ!見て下さい!」
そう言うが早いかアナスタシアがグリッドの手を取り引っ張っていく。
「お、おい!なんなんだ?私は忙し……。」
「お願いします!ちょっとだけ!」
アナスタシアはグイグイ引っ張って外へとグリッドを連れだした。
「まったく……強引な奴だ。で?」
グリッドが腕を組んでアナスタシアに問う。
アナスタシアは薪を切り株に立てると離れた場所に立ち剣を構えた。
「いきます。」
そう言うとギュッと剣を握りこんだ。
「闘気斬!!」
アナスタシアが剣を振ると闘気が刃となり放たれた。
カランッ……。
立てられた薪が真ん中から二つに割れ転がった。
「よしっ!」
アナスタシアが拳を握る。
グリッドが無言で切り株の方に歩いていく。
斬られた薪を拾い上げ断面を指でなぞる。
「ほぅ。」
唇の端を僅かに上げる。
「いいだろう。合格だ。」
それを聞いたアナスタシアが跳び跳ねて喜ぶ。
「しかし……。」
「え?」
アナスタシアがグリッドを見つめる。
「なんだその技名は?」
「え!?変……ですか?」
「……ダサい。」
「えーー!!」
アナスタシアは肩を落として落ち込んだ。