姫様、助言を求める
汗にまみれた身体を流しさっぱりしたアナスタシアは昼間の修行で消費した体力を補うように目の前の料理を口に運ぶ。
すると、珍しくグリッドの方から話かけてきた。
「お前は魔術を行使する時にどうしている?」
「え?」
アナスタシアは食事の手を止めてグリッドを見る。
「どうって……魔力を手に集中して……。」
アナスタシアは掌を上に向ける。
「やってみろ。」
「は、はい。」
言われるままに手に魔力を集中する。
「火球!」
アナスタシアの掌の上に拳大の火球が出現した。
これからどうしたらいいのか尋ねるようにグリッドを見るアナスタシア。
グリッドはスッと人差し指を立てる。
(……?)
アナスタシアが指先に視線を向ける。
立てた指の上に火球が一つ出現した。
(ーー!!)
アナスタシアが目を見開く。
大きさは自分の出したものと同じ位だが、込められた魔力は比べものにならない。
「せ、先生……?」
真意を計りかねるアナスタシア。
すると、グリッドが出した火球が揺らぎ氷塊へと姿を変えた。
「え!?」
氷塊はパンッて砕けると風になりアナスタシアの頬を撫でて消えた。
「もういいぞ。」
グリッドがアナスタシアに言った。
「あっ……えっと……。」
もう火球を消して良いという意味だとわかり掌の火球を消すアナスタシア。
「……。」
「…………。」
「……………。」
「……えっと……自慢?」
アナスタシアの言葉にグリッドが突っ伏す。
「お前なぁ!!」
グリッドがアナスタシアの頭を鷲掴みにしブンブンと振る。
「わわわっ!な、なにを~!?」
「人がせっかくヒントをくれてやったってのに!」
「ヒント?今のが?」
「ちっ。薬草採りの駄賃代わりにと思ったんだが……ここまで鈍いとは。」
忌々しげにワインを煽るグリッド。
「な、なんか……ごめんなさい。」
「ふん。もういい。後は自分で考えろ。」
グリッドはグラスに残ったワインを飲み干し席を立つとアナスタシアを残して行ってしまった。
(ヒント……さっき先生がやってみせたことがヒント……。)
グリッドの言葉を頭の中で反芻する。
「自分で考えろか。」
アナスタシアは腕を組んで首を捻る。
どうやら今夜はなかなか眠れそうになかった。