姫様、行き詰まる
小屋へ帰ってくるとグリッドはアナスタシアに一つ仕事を言い付け、採集した薬草を持って籠ってしまった。
どうやら村へ持って行く薬を作るようだ。
「せいっ!」
コッーン!
アナスタシアの立つ位置から少し離れた場所に立てられた一本の薪。
それが弾かれた様に宙を舞う。
「だめだ……。」
グリッドに言われた仕事とは薪割りである。
ただし、斧や剣で直接割るのではなく放った斬撃で割る事。
「くっ……もう一度。」
アナスタシアは弾かれた薪を拾いに行き切り株に立てる。
一定の距離をとり剣を振りかぶると気合いと共に振り下ろす。
剣から放たれた闘気が前方へと飛んでいき薪に当たる。
コッーン!
またしても薪は大きく弾かれた後方に転がった。
「もー!!」
アナスタシアは苛立たし気に剣を地面に突き立てた。
剣を介して闘気を放つ。
ようやくそれが出きるようになったアナスタシアは新たな壁にぶち当たっていた。
斬れないのである。
放たれた闘気は悉く薪を弾き飛ばしてしまう。
「うぅ……どうしよう……。」
アナスタシアは途方にくれたように傍らに積まれた薪を見る。
グリッドから言い付けられたのはこれを全部割る事だ。
もうコッソリと直接割ってしまおうかという誘惑にかられてしまう。
(ダメダメ!これもきっと修行なんだ。)
アナスタシアは頭を振って邪念を払い去る。
地面に転がる薪を立てると薪割りを再開した。
※※※※※
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
いつの間にか日が暮れていた。
アナスタシアは汗だくになりながらも結局一本も薪を割る事ができずにいた。
「やれやれ。全然出来てないじゃないか。」
肩を落とすアナスタシアに小屋から出てきたグリッドが声をかけた。
「…………。」
バツが悪そうに黙ってしまうアナスタシア。
グリッドは立て掛けてあった手斧を手に取ると、積み上げられた薪の山に向かって一振りする。
空を斬る音がしたかと思うと薪が全て真っ二つに割られていた。
「なっ……!?」
唖然とするアナスタシアをよそにグリッドはくるりと背を向け小屋へ戻ってしまう。
「さっさと風呂を沸かせ。食事はその後だ。」
ドアが閉まり外に取り残されるアナスタシア。
頬を両手で挟む様に叩き薪を抱えて風呂を沸かしに向かった。