姫様、手伝う
その後、アナスタシアは日が暮れるまで剣を振り続けた。
ゆっくりだった剣速を少しずつ早くしていく。
一度コツを掴んだお陰か、日が沈む頃にはとうとう離れた岩に斬撃が届くまでに至った。
ただし、うっすらと削る程度だったが。
丸一日剣を振っていたせいか、その日のアナスタシアは夕食と風呂を済ませるとすぐに寝てしまった。
翌朝
「ほら、起きろっ!」
「うぐっ!?」
泥のように眠っていたアナスタシアにドシンッと何かが降ってきた。
目を白黒させながら目を覚ますアナスタシア。
「な……な……なんだ!?」
「いつまで寝てるんだ。行くぞ。」
「い、行く?」
目を擦りながら身体を起こすアナスタシア。
どうやら急に降ってきたのは先日村まで背負って行った大きな籠だったようだ。
(なんてことするんだ!)
恨めしげなアナスタシアの視線を気にも止めずグリッドが言う。
「さっさと支度しろ。出かけるぞ。」
「出かけるって……村ですか?」
「いや、森だ。」
「森?何しに?」
「行けばわかる。急げよ。」
そういうとグリッドは籠を置いて去っていった。
「もう……なんなのよ。」
不満気に身支度を整えるアナスタシア。
一通り済ませて外に出ると、グリッドが椅子に座り煙草を吸いながら待っていた。
「ん。じゃあ行くか。」
煙草を灰皿に押しつけグリッドが立ち上がる。
「あの……森って?」
「薬草を採りに行く。来い、荷物持ち。」
「え~!」
道中で聞いた話では、グリッドは村に薬草やそれをもとに作った薬を売りに行っているらしい。
「先生、薬も作れるんですか?」
「ああ。まあ、採れる薬草の種類にもよるしたいした設備もないからたかがしれてるがな。」
とは言えグリッドの薬草と薬は評判が良いようで、あっという間に売り切れるらしい。
オルマンの森に着くとグリッドは迷うことなく中へと進んで行く。
アナスタシアはかつて一瞬エドワードと闘った記憶が過る。
「なにしてる?行くぞ。」
「は、はい!」
慌てて後を追うアナスタシア。
森の中はまだ朝早い時間だからかひんやりと肌寒かった。
草花にも朝露が光っている。
「それ。」
「え?」
グリッドの指差す先には丸い葉の草が生えていた。
「根っ子から慎重に採れよ。」
「は、はい。」
アナスタシアは言われた通り根元の周りの土を掘り慎重に引っこ抜く。
根に絡まる土を払い落としグリッドに見せる。
「うむ。いいだろう。」
グリッドは頷くと歩き始める。
アナスタシアは草を背負っている籠に放り込むと後に続く。
「これ薬草なんですか?」
「ああ、リム草といって葉は虫刺されに根は煎じて飲むと胃痛に効く。」
「へ~。」
その後もグリッドに言われるままにアナスタシアは様々な薬草を採り続けた。
意外な事にグリッドはアナスタシアの質問にすんなりと答えてくれた。
最初は早く終わらせて帰って修行の続きをしたいと思っていたアナスタシアも次第に薬草採集に熱が入っていった。
「こんなものか……。よし、戻るぞ。」
「はい!」
太陽が真上に来る頃にはアナスタシアの背負い籠は一杯になっていた。