姫様、喜ぶ
「次はこの剣を巡る闘気を放てばいいだけだ。」
事も無げに言いながらフォークを弄ぶグリッド。
「いいだけって言われても……。」
「放つというのは切り離すということだ。」
「切り離す……。」
「お前は斬撃を飛ばすという結果だけを見ているが、そこに至るまでにはいくつかの順序があるってことさ。」
そう言うとグリッドは空になったワインの瓶を天井に向かって放り投げた。
「あ!?」
それを目で追うアナスタシア。
グリッドがフォークを横に振った。
すると空中で空き瓶が三つに解れる。
「…………。」
唖然としながら床に転がる瓶の残骸を見つめるアナスタシア。
話は終わりと言うようにグリッドが席を立つ。
グリッドが行ってしまった後もアナスタシアは座ったままテーブルに置かれたフォークを見つめていた。
※※※※※
翌日も朝からアナスタシアは外で剣を振っていた。
しかし、昨日とは違い闇雲にではない。
剣を構え闘気を巡らす。
(闘気を剣から切り離す……。)
ゆっくりと鳥が止まれるような速度で剣を振る。
魔術を放つのと同じ感覚で闘気を前に飛ばすイメージを浮かべる。
(刃の部分の闘気を送りだす……!)
アナスタシアが剣を下まで振り下ろすと刃状の闘気がゆっくりと前に進んで行く。
「できたっ!」
何度目かの挑戦で遂に成功する。
かなり不恰好ではあるがとうとう斬撃を飛ばすことができた。
放たれた斬撃はフワッと漂うように前に進み岩に到達する前にかき消えた。
しかし、アナスタシアはそんなことはお構い無く興奮が抑えられない。
「やったー!!できたっ!できたっ!」
跳び跳ねて喜ぶアナスタシア。
「そうだよ!難しく考える事なかったんだ!闘気も魔力も同じ生命エネルギーなら、魔術を放つのと変わらないんだ!」
まるで大発見でもしたようにはしゃぐアナスタシア。
「ええいっ!五月蝿い!」
グリッドの声とともに小屋のドアがばんっと開く。
「あっ!先生!」
アナスタシアが上機嫌で手を振る。
グリッドがズンズンとアナスタシアの方に向かって来る。
「先生!できまし……。」
「この馬鹿!なにを当たり前の事を大声で喚いてるんだ!」
「えー!?」
世紀の大発見が実は子供の絵本に描いてあると言われた学者のような顔で固まるアナスタシア。
「な……な……。」
「そんなもの魔術が少しでも使える者ならすぐに気づくものだろうに……。」
グリッドは肩を竦めて呆れたように溜め息を吐いた。
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