姫様、悩む
その日の夜。
夕食の席は静かだった。
グリッドは特に修行の進捗を尋ねてはこなかった。
対してアナスタシアには聞きたいことが山程ある。
なんとか剣まで闘気を巡らせることはできた。
だがその先、それを飛ばすという壁にぶち当たってしまった。
正直、アドバイスが欲しい。
(でもこの人の場合……。)
"知らん。自分で考えろアホ。"
(だよね~。)
簡単に想像できてしまう。
「ん?なんだ?」
アナスタシアの視線に気づいたのかグリッドが食事の手を止める。
「あ、いえ、なんでもない……です。」
慌てて顔の前で手を振るアナスタシア。
グリッドが再び手を動かす。
「……。」
「…………。」
じー。
「あのなぁ……。」
「い、いや……これは。」
グリッドが大きく溜め息を吐く。
「言ってみろ。」
「え?いいの?」
「じっと見続けられるよりはマシだ。」
アナスタシアはこれ幸いと現状を説明し助言を求める。
「知らん。自分で考えろ馬鹿。」
(そっちだったか……。)
アナスタシアが肩を落とす。
「だが……進捗状況はまあまあのようだな。」
「え?」
「魔力を流し易くするための誘導体が仕込まれている魔術師の杖等と違い、なんの変哲もない剣に闘気を通わせるのはそれなりに訓練が必要だ。」
グリッドが左手に持ったいたフォークをクルリと回し上に向ける。
突然始まった授業を聞き逃すまいとアナスタシアが前のめりになる。
「半日足らずでその段階までもっていけたのは……まあ悪くない。」
アナスタシアの顔が僅かに華やぐ。
「調子に……のるな!」
「イタッ!」
額を指で弾かれたアナスタシアが恨めしげにグリッドを見る。
(あっ!)
グリッドの持つフォークが闘気で覆われている。
「別に驚く事じゃない。要は応用だ。」
「応用……。」
「魔力や闘気を巡らせた物質は通常より遥かに強固になる。」
そう言うとグリッドは空になった皿にフォークを当てるとスラスラと字を書いた。
「なっ!?」
陶器の皿は柔らかい粘土の様に簡単に削れてしまった。
「これが、今の段階だ。」
「は、はい。」
「無論、より強大な気を巡らせればこの分強固になる。だが、闘いの最中に常に強大な気を流し続けるには相応の集中力や体力もいる。」
アナスタシアが無言で頷く。
それは今日一日で嫌というほど身に染みてわかった。
「こればっかりは時間をかけて鍛えるしかない。」
「はい……。」
「で、その先だ。」
どうやらここからが本題らしい。
アナスタシアは益々目を輝かせた。
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