姫様、質問してみる
「やってみろ。」
「え?」
アナスタシアが目を丸くしながら差し出された剣とグリッドを交互に見る。
「え?今のを?」
「当たり前だろ。特別に手本まで見せてやったんだ。」
「そんな!?」
(たった一回見せられただけで!)
そう思ったがなんとか言葉にせず飲み込む。
(考えろってことか……。)
アナスタシアは黙って剣を受けとる。
グリッドは剣を渡すとスタスタと小屋の方へ歩いていく。
どうやらここからは一人でやれと言うことらしい。
(望む所だ!)
アナスタシアは両手で剣を握る。
「とは言え……。」
斬撃を飛ばすなどという芸当をどうすればできるのか。
アナスタシアはとりあえず力を込めて剣を振ってみる。
ブンッ!
剣は虚しく空を切る。
「だよね~。」
その後もしばらく剣を振り続けるがいっこうに手応えがない。
アナスタシアは地面に剣を突き立て溜め息をつくとその場に腰を下ろす。
(先生は闘気を剣を介して飛ばしたって言ってよね……。)
闘気。
以前にヴォルフにも教わったことだ。
魔力と同じもので身体を巡る生命エネルギー。
(って事は……魔術と似たようなもの……か?)
アナスタシアが剣を地面から抜き構える。
精神を集中し闘気を昂める。
(剣を介して……。)
アナスタシアはさらにグリッドの言葉を思い出す。
"得物を手足の延長のように……"
(手足の延長……。)
アナスタシアの脳裏に微かな閃きが走る。
(やれるか?)
アナスタシアは構えた剣を腕の延長として考えてみる。
そのまま闘気を昂める。
すると、今迄身体を覆ってい闘気がゆっくりと剣を覆っていく感覚がした。
(これだっ!この感覚……!)
アナスタシアは今の感覚を忘れないように身体と頭に刻み込む。
身体から溢れる闘気が剣を覆ったと感じた瞬間、
「うっ!」
アナスタシアが地に膝をつく。
「はぁはぁはぁ……。」
凄まじい疲労感がアナスタシアを襲う。
「くそっ……でも、感覚は掴んだっ!」
アナスタシアが剣を支えに立ち上がる。
確かな手応えを感じ思わず笑みが浮かぶ。
今はただこの感覚を忘れないように。
その一心でアナスタシアは剣を構えた。
※※※※※
グリッドが本をなぞる指を止め窓の外に顔を向けた。
「ふん。ようやくか……。」
グリッドは一瞬口の端を上げると再び本をなぞり始めた。