姫様、教わる
「よし、やってみろ。」
「はい。」
グリッドに言われアナスタシアは精神を集中する。
いつもヴォルフとやっていた事だ。
体内を巡る気を昂めていく。
「ほう……。」
グリッドが僅かに感心する。
「なんでもいい。なにか魔術を放ってみろ。」
「魔術を?」
「ああ、そうだな。あの岩に向かってやってみろ。」
「は、はい。」
アナスタシアは少し離れた場所にある大人の背丈程の岩に向かって両手を突きだす。
「火球!」
放たれた火の塊は真っ直ぐ岩に飛んでいき直撃する。
ボウッ!
と音を立て炎が岩を包み込む。
やがて炎が消えると蒸気をあげた岩が現れた。
(どうだっ!)
アナスタシアがグリッドを見る。
「…………。」
(あ、あれ?)
「ふぅ。まるで使い物にならんな。私は手品を見せろと言ったわけではないんだが。」
「て、手品って……。」
(ジイなら誉めてくれるのに……。)
アナスタシアが不満そうに口を尖らせる。
「放つまでに時間がかかり過ぎる。相手が動けない状態か、もしくは仲間の援護有りきだ。」
「うっ……。」
「まずはそこからだな。」
「え?」
「お前、なんでわざわざ両手を構える?」
「なんでって……そうしないと魔術が。」
「はぁ……じゃあ魔術師が杖から魔術を行使するのはなんでだ?」
「あっ……。」
確かに言われてみればそうだ。
ヴォルフもプリシアも杖を持っているじゃないか。
今迄疑問にも思わなかった。
「固定観念だな。確かに学びたての頃は道具を使わずに訓練するのもいいが、実戦で使うのに手からしか行使出来ないのは効率が悪すぎるだろうが。」
そう言うとグリッドは地面に突き立てられたアナスタシアの剣を手に取った。
ビュンッ!
先程の岩に向かって剣を振るう。
すると、岩に斜めの線が刻まれた。
「え?」
アナスタシアが目を見開き岩を凝視する。
岩は刻まれた線に沿ってゆっくり分断されいった。
「今のは……!?」
アナスタシアがグリッドに尋ねる。
「闘気を剣を介して斬撃として飛ばした。」
当たり前のようにグリッドが答えた。