姫様、答える
「イッタ~い!何するんですか!」
アナスタシアが頭を擦りながらグリッドに抗議する。
「お前はアホか。」
「えーー!?」
初めて言われた言葉に衝撃を受け固まるアナスタシア。
(アホ……アホって阿呆って事?私が?え~と……私が阿呆?)
明後日の方向を見ながらフラフラ揺れるアナスタシア。
グリッドが呆れ顔で言う。
「一週間やそこら鍛えたところで急激に膂力や魔力が成長するわけないだろう。」
(ーーはっ!)
アナスタシアが正気を取り戻す。
「それは……そうだけど……。」
「短期間で強くなりたいんなら鍛えるよりも学べ。」
「学ぶ?」
「馬鹿みたいに剣を振るよりも掴んだ感覚を忘れないようにしろ。なぜ剣が振りやすいのか考えろ。」
今度は馬鹿ときた。
しかし内心の疑問を見透かしたような言葉に驚くアナスタシア。
「私が教えてやった事に対応できるように身体を整えておけ。」
「は、はい……。」
「ふん。分かったらとっとと休め。」
話は終わりと言うようにグリッドはくるりと背を向け小屋の方に歩いて行ってしまった。
アナスタシアは暫しその場に立ち尽くし、やがて自分も鍛練を切り上げ小屋へと戻った。
※※※※※
次の日は朝からグリッドが付き合ってくれた。
「勘違いするな。私はお前に稽古をつけてやるわけじゃない。少しだけ技術とコツを教えてやるだけだ。」
グリッドはそう言うとアナスタシアに剣を振らせる。
「ふむ。昨日の事は忘れてないようだな。」
「はい。」
「で、理由は?」
「……あの、言葉にするのが難しいんだけど。」
そう前置きしてからアナスタシアが話す。
「今までは剣に身体が合わせてたというか……剣が先で身体が後っていうか。でも今は腕の延長線に剣がある気がします。」
「まあ、合格だな。」
アナスタシアがホッと胸を撫で下ろす。
「お前の剣は誰かの見よう見真似だろう。見取り稽古をするには未熟なくせに無理やり剣の方に身体の動きを合わせにいっていた。」
グリッドの言う通りだとアナスタシアが頷く。
自分の剣はミアソフ近衛兵長の剣技を真似たものだ。
初歩的な斬突は教えてもらったが、それ以外はアナスタシアが旅に出てからの鍛練で身につけた。
その際にイメージしていたのは城で見たミアソフの剣だ。
「でも、なんで……。」
そんなことがわかるのだろう?
アナスタシアの疑問にグリッドが答える。
「お前の身体から無理な動きをして軋む音が聴こえた。無理な動きをするから息も乱れる。息が乱れると気配も乱れる。」
アナスタシアが口をあんぐり開けてグリッドを見つめる。
まさか、そんなことまでわかるなんて。
アナスタシアは改めてグリッドの凄さを目の当たりにした。