姫様、気付く
グリッドに言われた通りに剣を上下に振るアナスタシア。
「はっ!……はっ!……はっ!」
するとグリッドがアナスタシアの傍にやってくる。
(な、なに?)
「止めるな。続けろ。」
思わず手を止めるアナスタシアにグリッドが言う。
「は、はい!」
素振りを再開するアナスタシア。
その剣の軌道上にグリッドが手斧を突きだした。
ーーガキーン!!
硬質な金属音が鳴り響いた。
「うわっ!」
またしても手を止めるアナスタシア。
「な、なんですか!?」
「ほら、続けろ。」
「でも……。」
「いいからさっさとやれ。」
「はーい……。」
アナスタシアは怪訝そうに返事をしてまた剣を振る。
グリッドがまたしても手斧を突きだす。
「このまま続けろ。」
今度はアナスタシアが手を止める前にグリッドが言った。
「うっ……は、はい!」
ーーガキーン! ーーガキーン!
月夜の丘に響く無機質な音。
(あれ?)
幾度目かでアナスタシアが気づいた。
(なんだろう……なんか振りやすい……。)
そう感じた途端にグリッドが手斧を引っ込めた。
「このまま1000回。」
そう言い残すとグリッドはアナスタシアから離れる。
アナスタシアは剣を振り続けながら目線で分かったと伝える。
(なんだろう……剣を振るのが楽だ。)
内心で疑問に感じながらも言われた通りに素振りを続けるアナスタシア。
「はっ!……はっ!……はっ!……はぁぁ!!」
1000回振り終わると大きく深呼吸をして後ろを振り向くアナスタシア。
「終わったか。」
グリッドが小屋の傍にあった屋外用の木製チェアに足を組んで座っていた。
隣には同じく屋外用の小さな木製テーブルがあり、いつの間に持ってきたのかグラスと酒のボトルが置かれている。
「あ、あの~。」
「ふむ。今日はこれくらいにしとくか。」
グリッドはグラスに残った酒を飲み干すと立ち上がった。
「あの、私まだ続けます。」
「ん?」
小屋に入ろうとしていたグリッドが振り向く。
「もっと膂力も魔力もつけないといけないから。だから休んでいる暇はないんです。」
アナスタシアはそう言うとグリッドにペコリとお辞儀をしてから素振りを再開する。
「…………。」
グリッドが無言でアナスタシアの傍まで歩いてくる。
「あ、あの……?」
「…………。」
「なにか……?」
「…………。」
ゴツンッ!
「イタッ!」
グリッドがアナスタシアの頭に拳骨を落とした。