姫様の夜
夜。
「……。」
「…………。」
些か慌ただしげに食事を口に運ぶアナスタシア。
対するグリッドは少食なのだろうか、アナスタシアの半分程の量の料理をゆっくり食べている。
ちなみに、夕食はグリッドの手作りである。
一応弟子であるアナスタシアは自分が作ると申し出はした
が、例によって料理等ほとんどしたことのない身の上である。
案の定、炊事場と材料を無茶苦茶にしかけた所でグリッドに首根っこを摘ままれ追い出された。
「ふぅ……ごちそう様でした。」
アナスタシアは早々に食べ終わり食器を洗うと自らの剣を手に取り小屋の外へ出てる。
(一週間しかないんだ!少しでも鍛練を積まなきゃ!)
日課の素振りを始めるアナスタシア。
昼間の悔しさを晴らすかのように力強く剣を振り続ける。
月明かりの下、虫や木菟の鳴き声を伴奏に剣が風を切る音とアナスタシアの気合いを込めた声が規則的に繰り返される。
どれくらい時間が経っただろうか。
「飽きもせずによくやるもんだ。」
「!?」
いきなり声をかけられ驚くアナスタシア。
「せ、先生?」
振り向くとグリッドが立っていた。
(全く気配を感じなかった……。)
鍛練に集中していたとはいえ、グリッドが小屋から出てきた事にも気づかないなんて。
「昼間それなりに痛めつけたと思ったがな。」
「あ、いや……まあ……。」
確かに昼間の手合わせでボロボロだったが痛めた箇所はグリッドの魔術で治っていたし、アナスタシア自身も拙いながら自己治癒が出来るので身体はそれほど辛くはなかった。
「いつも時間があればやってた事だから……やっとかないと落ち着かなくて。」
「ふーん。」
グリッドが腕を組む。
「ふっ。根性だけはあるようだな。」
「だけって……。」
アナスタシアが不満げに頬を膨らませる。
「先生は?」
「ん?私か?私は……。」
グリッドが空を見上げる。
「今夜は月が綺麗なんでな。」
口の端を上げるグリッド。
(これは……冗談なんだろうか?)
確かに月は綺麗に見えるが……。
アナスタシアが返答に困っていると、グリッドが小屋の方から何かを持ってきた。
「手斧?」
アナスタシアが呟く。
グリッドが手に持っていたのは、昼間の手合わせの時に使った手斧だった。
「なにを……。」
するんですか?と尋ねようとしたアナスタシアにグリッドが言った。
「ほら、続けてやってみろ。」