姫様、頑張る
「んん……。」
アナスタシアが目を覚ますと大木に背を預け座っていた。
(えっと……。)
ゆっくり視線を横に向けると、グリッドも同じ様に座って本を指でなぞっていた。
どうやら点字で書かれているようだ。
グリッドがパタンッと本を閉じる。
「目が覚めたか……よく寝る奴だな。」
「あ……は、はい。」
なんと答えたらいいか分からないアナスタシアがとりあえず返事だけする。
「さて……。」
グリッドが立ち上がるとアナスタシアもそれに続く。
「もう一度だ。」
「え?」
グリッドは本を木陰に置くとスタスタと歩きアナスタシアと距離をとる。
「さっさとしろ!」
「は、はい!」
アナスタシアが慌てて剣を手に取る。
「うぅ……。」
アナスタシアの脳裏に先程こてんぱんにやられた記憶が甦る。
そんな恐れを頭を振って振り払うアナスタシア。
ぎゅっと剣を握りしめるとグリッドに向かって走った。
※※※※※
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
大の字に倒れ天を仰ぐアナスタシア。
その顔に影が差す。
「もう限界か?」
「はぁ……はぁ……ぐぅっ……!」
アナスタシアは四肢に力を入れて立ち上がろうとするが意に反して身体が動かない。
「まあいい。今日はこれくらいにしておこう。」
「はぁ……はぁ……ま、まだ……。」
それでも強がりを言おうとするアナスタシアを見下ろしながらグリッドが懐から煙草を取り出し口に咥える。
「ふっ。威勢だけは一人前か……。」
グリッドは鼻で嗤うと小屋の方へ歩いていった。
「はぁ……はぁ……。」
アナスタシアは薄っすらと目を開けて空を見る。
「……うぅ……。」
悔しい。
全く歯が立たない。
それは分かっていた事だ。
しかし、それをすんなり受け入れらる程アナスタシアは達観していなかった。
なによりも悔しいのは、心のどこかで安堵してしまった事だ。
そんな自分自身に腹が立った。
これまの闘いでの敗北の記憶が思い返される。
「……ぐすっ……うぅ……。」
アナスタシアが鼻を啜る。
目尻に微かに輝くものが浮かぶ。
幸い、その姿を見ている者はいなかった。
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