姫様の三人旅
小鳥の囀ずる声でアナスタシアは目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光が顔にかかり寝返りをうち逃れる。
ゴロンと横を向き隣のベッドを見ると既に空っぽだった。
どうやらプリシアは先に起きたらしい。
(起きるか……。)
アナスタシアは身体お越し、ベッドの上で伸びをする。顔を洗いに行くためにベッドから立ち上がろうとすると丁度プリシアが部屋に入ってきた。
「あら?お目覚めになりましたか姫様。おはようございます。」
「ああ、おはようプリシア。ずいぶん寝坊しちゃったかな?」
「ふふふ。よっぽどお疲れだったんですね。よくお休みでしたよ。」
「うん、どうやらそうらしいね。」
「朝食はとってありますから、まず顔を洗われてはいかがですか。」
プリシアがカーテンを開けながら言う。
「そうだね。行ってくるよ。」
アナスタシアは昨晩の事を思いだす。
ヴォルフとプリシアの二人と共に旅をすることになったあと、三人で乾杯をして食事をとった。
それから町の入り口近くの宿屋にヴォルフが既に部屋をとっていたのでそこに泊まったのだ。
(今日から改めて出発か……。)
歯を磨きながらぼんやり考えるアナスタシア。
身支度を整え、遅めの朝食をとり終わる頃には昼前になっていた。
食後のティータイムがてらアナスタシアの部屋に三人集まり今後の目的地について話し合いをする。
「国境を超える為には南西の海岸線沿い、カタート山脈の最南端にある関所を通らないといけませんな。」
ヴォルフがテーブルの上に広げた地図を指差しながら説明する。
「関所か……。まっすぐ向かったとして、どれくらいかかるかな。」
「そうですなぁ。野営しながらでも旅慣れた者で歩いて四日程でしょうか。我々だと六日はかかるかと。」
「六日も野宿か~。」
ベッドの縁に腰掛けていたアナスタシアが後ろに倒れこむ。
「ですので、少し迂回しようかと思います。」
「迂回?」
「はい、まずこの宿場町から定期便の馬車が出ている西のミノールという町に向かいます。」
「ミノールといえばアイソル領内で城下町の次に大きな町だったね。」
「私、行ったことないです~。」
「あそこは色んなお店があって賑わってたな。」
「姫様はあるんですか!いいな~。」
「ずっと前にお父様と視察にね。」
「そこでしっかりと旅の準備を整えてから南西へ進み関所を目指しましょう。」
確かにアナスタシアの格好はこれから冒険の旅に向かう者としては軽装過ぎる。
そもそも武器らしい武器もないのだ。
ヴォルフとプリシアもちゃんと装備を整える必要がある。
そういうわけで次の目的地は西にあるミノールの街に決まった。
「先程、定期便の時刻を確かめて参りましたが、あと2時間後にミノール行きが出るみたいでした。」
「わかった。じゃあ、それに乗ってミノールへ行こう。」
「御意。」
「はい!」
三人は荷物を纏めると定期便の出発時刻まで町を散策しながら時間を潰した。
宿場町故に宿屋と食堂、酒場くらいしかない町ではあったが滅多に城からでることのない娘二人には十分興味をひくものであった。
そうこうしているうちに定期便の時間になり乗り場へと向かう三人。
10人乗りのミノール行きの馬車は満席だった。
アナスタシア達の後に乗り込んだ家族の男の子はまだ馬車が珍しいのか跳び跳ねて喜び母親に怒られている。
そんな微笑ましい光景にアナスタシアは目尻を下げながら馬車の旅を満喫するのであった。
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