姫様、いろいろ貰う
(お、重い……。)
いつのまにかアナスタシアの背負う籠は一杯になっていた。
この村でのグリッドの人気は絶大で村人達はグリッドを見かけると話掛けて来ては畑ど採れた野菜を渡してくる。
「シスター!こないだはありがとうございました!」
「いや~シスターの薬草は良く効きますよ!」
「ありがたや~ありがたや~。」
そんな村人達にグリッドは微笑みながら応えてやるのだ。
「これと……それ、下さいます?」
グリッドとアナスタシアは雑貨屋に入り必要な物を買い揃える。
「あいよ!え~っと……こんなもんかな!」
「あら?ずいぶんお安くないかしら?」
「へへ。他ならぬシスターに買ってもらうんだ。とことんサービスさせて貰いますぜ!」
「まあ、ありがとうございます。」
と、まあ終始こんな感じである。
アナスタシアは山盛りになった籠を背負い両手に買い物袋をぶら下げ、丘の上を目指して坂道を登る。
「ちょっ、ちょっと……。」
「ほら、さっさと歩け。」
スタスタと前を歩くグリッドの後ろを息を切らせて追うアナスタシア。
やっとの思いで小屋に着くと荷物を下ろして座り込んだ。
「うむ。まあこれだけあれば十分だろ。」
グリッドが腕組みしながら言う。
「じゃ、じゃあ……修行を。」
「修行ねぇ……。」
グリッドが顎に手を当て思案する。
その姿を期待を込めた目で見つめるアナスタシア。
「うーむ。とりあえずお前の剣を持ってこい。」
「は、はい!」
アナスタシアが小屋の中へ駆けていく。
戻ってくるとグリッドが小屋からやや離れた場所に立っていた。
「持ってきました!」
「ふむ。じゃあかかってこい。」
「え?」
「ほら、さっさとしろ。」
本当にいいんだろうかと躊躇うアナスタシア。
グリッドの凄さは知っているが、それでも盲目の丸腰相手に斬りかかるのは……。
「ちっ……それなら。」
そう言うとグリッドは小屋の隣にある切り株に刺さった手斧を持ってくる。
「これで遠慮は無用だろ。まあ、必要ないがな。」
(むぅ……。)
アナスタシアの目に微かな火が灯る。
「わかりました。いきますよ。」
アナスタシアは剣を構える。
対するグリッドは手斧を握ってはいるが特に構える様子はない。
(馬鹿にして~!!)
「たぁー!!」
アナスタシアが大きく踏み込み剣を振り下ろす。
「え!?」
剣はグリッドのしなやかな二本の指に摘まむように止められる。
「お前なぁ、ふざけてるのか?」
「そ、そんな……。」
アナスタシアが振り下ろそうと力を込めるがびくともしない。
「やれやれ。先が思いやられるな。」
「くそっ、これなら!」
アナスタシアが剣から左手を離し魔力を込める。
「火の……!?」
「遅すぎる。」
グリッドがアナスタシアの左手首を掴み投げ飛ばす。
アナスタシアの身体は軽々と宙に舞い積んであった薪に落下した。
「お前……弱過ぎるだろ……。」
グリッドが溜め息を吐いた。